KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2015年10月13日

歴史を学ぶということ

私は、今さらながらに歴史、それも世界史を勉強しています。
単なる知的好奇心ということもあるのですが、「今」だからこそ学ぶ必要があると思ったからです。

今、日本を、そして世界を見渡せば、そこには様々な問題が見えてきます。
それらに対して、どうしても私自身、「かわいそう」「けしからん」などと感情的になり、経験的・直感的に「こうすべき」と言いがちです。
しかしそれでは、モノゴトの表面しか見ていない・考えていないこともわかっています。

国内では安保法制問題に代表される安全保障と政治。
そして頻発する火山の噴火や水害など、自然の驚異への対応。
海外に目を転じれば、シリア難民という形でますます混迷を極めるイスラム社会。
貧困や食料問題に地球温暖化などのグローバル・ビッグ・イシュー。
さらに功罪相半ばするAIやIoT、ロボットなどの技術革新。
そうした背景によって、ますます不透明な世界経済。

重要なのは「なぜこうした状況になっているのか?」。その背景を今一度「自分のアタマ」で考えてみる。これが「オトナの思考」だと思うのです。

だから私は歴史を、特に高校時代は選択科目にしていなかった世界史を学ぶことにしました。そもそも学校教育における歴史のカリキュラムとは、そうした「過去から学び、未来に活かす」ためですし。

ただ、歴史を学ぶ材料はあまりにも多すぎます。書籍にネット、そして小説に映画やドラマ、はてはマンガやゲームまで、ありとあらゆるメディアが私たちの周りには氾濫しています。

今回は、「今月の一冊」という本コラムのコンセプトに沿って、私自身が「面白い!」と感じ、「なるほどねえ」とタメになった書籍を3冊ご紹介したいと思います。
それぞれ、「社会の動き」「文明の仕組み」「政治の進化」という異なるコンセプトで、ここでは紹介してみたいと思います。

社会の動き

名画で読み解く「世界史」』:祝田 秀全(監修) 世界文化社

本年2月から6月に国立新美術館で開催されていた「ルーブル美術館展」。
私も家族と観に行きましたが、フェルメールの「天文学者」をはじめとした、16 世紀から19 世紀半ばまでのヨーロッパ風俗画が集められていました。

そこでの私の発見は、「絵画」とは、現代の報道写真と同じ意義があったということ。
為政者の理不尽さや庶民の苦しみなど、社会の様々な問題を人々に訴えたいとしたら、当時は絵画という形態で伝えるしかなかったのです。

だから名画を通しても歴史は学べることに気づき、この本を手に取りました。

レンブラントの『夜警』など、様々な名画を楽しみながら、その時代と地域の状況に思いを馳せ、そして現代の状況と比較してみる。
世界史を学ぶという点で、これほど取っつきやすい本もないかもしれません。
ここでは、EUの存在を脅かしたギリシャについて、私が知見を深めることができた一枚をご紹介しましょう。

ドラクロワの『キオス島の虐殺』は、19世紀初頭、オスマントルコ統治のギリシャのキオス島で、トルコ軍が独立派だけでなく一般住民も虐殺した事件の一場面を描いたものです。
兵士の残虐さ、死んだ母親にとりつく子供。美しい筆致が、戦いの悲惨さをさらに際立たせます。
この絵は世論を後押しする材料となり、フランスやイギリスがギリシャ独立勢力の支援に動きました。現在のギリシャは、こうした悲惨なできごとを乗り越えて独立したのです。
こうした背景を知ることで、私は現在のギリシャの立ち位置やギリシャ国民の感情を少し理解できるようになりました。

私たちは今、報道写真や動画を通して同じように様々な悲劇を目の当たりにしています。そしてそれに対して声を上げ、世界を少しでも良くしようとします。
「報道としての絵画」。それに触れることは、今だからこそとても意味のあることだと思うのです。

文明の仕組み

銃・病原菌・鉄』:ジャレド・ダイアモンド(著) 草思社

「文明」とは何なのか、そしてそれはどうやって発展してきたのか。
また、なぜ人種や民族によって、文面の発展に格差があるのか。

この本は、そうした疑問に答え、「文明の仕組み」を明らかにしてくれます。

なぜ4万人のインカ帝国が200人足らずのスペイン軍に滅ぼされてしまったのか。
 - それは「銃」と「軍馬」がスペイン軍にあったから。

これは確かに事実です。しかし、なぜ南米大陸の先住民達は、それに匹敵する武器を開発できなかったのか? その理由は「民族としての優秀さの差」なのか?
 - 違う。

著者が提示する答は、「単に環境が違っていただけ」です。
地形、天候や動植物などの自然環境。それによって人々は「やらなければならないこと」「やらなくていいこと」が違ってくる。
「やらなくていいこと」に関して、知識やスキルが上がるはずもありません。
食料に恵まれ、平和なインカの人々に、誰かを殺戮する兵器など必要なかったのです。

また、「文字」が必要な環境とそうでない環境があった。だから「文字を持っていない人々は野蛮人」などでは決してないのです。
では、なぜ文字が必要になったのか。そこには「宗教」の存在があります。「神の言葉を共有し、継承する」ために文字が必要となった。そしてイスラム教とキリスト教を信じる人々が「国家」を形成し、布教の名の下に、しかし実のところは経済的な利を求めて、侵略戦争というものが生まれたのです。

では、今の世界の様々な問題は、どのような「環境の違い」が背景としてあるのか?
私にとってこの本は、それを考えさせてくれるきっかけになりました。

この本から何に気づき、それを「自分のアタマで現代の問題について考える」ためのヒントとするのか。それはひとりひとり違うと思いますが、ぜひ一度は手にとってほしい一冊です。

政治の進化

教養で勝つ 大世界史講義』文藝春秋SPECIAL 2015年夏号

私たちは「平和」を望んでいます。
しかし、同一民族の中でも「みんな仲良く」という平和が訪れたことは一度もありません。ましてや、国家間で戦争がない世の中など、望むべくもないのかもしれません。

先に議論となった安保法制にしても、賛成派、反対派ともに戦争をしたい人などひとりもいません。ただ、平和に向かう「道」が異なるだけなのです。

国家間の平和を求める道。そのひとつが「世界規模での連合」です。第二次世界大戦後の国際連合も、(現在安全保障の視点で機能しているかどうかは意見が分かれますが)平和のために創設されました。

しかし、国連創設のほぼ300年前、1648年にも国家間の動乱を終わらせ、平和を導く試みはなされていました。高校で世界史を取っていた方ならおわかりでしょう。
そう、それが「ウエストファリア条約」です。

この条約は、1618年から続いた「30年戦争」を終結させるために締結されました。
30年戦争も、ご多分に漏れずはじまりは宗教対立です。カトリックの支配に対するプロテスタントの武装蜂起が引き金となり、国家間のパワーゲームに発展しました。

この戦争における死者は400万人、うち半数が非戦闘員であったといいます。
第一次、第二次世界大戦には及ばないものの、当時のヨーロッパの人口を考えれば、まさに「ヨーロッパが滅亡する」ほどの「大戦」でした。主戦場となったドイツでは、なんと全人口の35%が死亡したと言われています。

この滅亡の危機に瀕した(ヨーロッパ)世界を救う。30年戦争を終結させ、国家間を平和のうちに共存させる。

そのための取り決めがウエストファリア条約です。現在の「国連憲章」にあたると言ってもよいでしょう。この条約には、合理主義哲学の祖、デカルトの考え方なども取り入れられました。

世界史に疎い私には、この事実はとても新鮮でしたし、現代の世界政治、そしてわが国の政治について考えるための「切り口」を与えてくれました。

「今の世の中はどうなっているのか?」。
シリア情勢、そしてイスラミック・ステートの活動からもわかる通り、宗教対立が終わる気配は全くありませんし、国家間の政治的・経済的綱引きは激しさを増すばかりです。

本書の一稿、『ウエストファリア条約 「宗教戦争」の終わらせ方』では、「今こそ、新たなウエストファリア条約が必要では」と問題提起をしています。
ひょっとすると、今の国連の枠組み「だけ」では、国家間の緊張緩和は難しいのかも、とすら思いました。そんな時代に日本が、どう平和に貢献できるか。今の自分の仕事で、できることには何があるのか…

今一度私自身、じっくりと考えてみたいと思います。
こうした本から「歴史を学ぶ」ことを通して。

本書は文藝春秋のムックであり、他にも「なぜイギリスで産業革命が始まったか」「ムスリム商人が作った中世グローバル経済」など、現代の様々な問題・課題を読み解くための「過去の経緯」が数多く語られています。

巻頭では池上彰・佐藤優両氏が対談で「日本人よ、世界史で武装せよ」と語っています。
あなたも私と一緒に、「自分のアタマで現代の問題について考える」旅に出てみませんか?
 
(桑畑 幸博)

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