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『Composers』 / 『Painters』

2004年07月13日

Composers: The World’s Great Classical (Fandex Family Field Guides)
著者:David Bouchier
出版社:Workman Pub Co; &nbspISBN:0761112065 ; (1999/09)
本体価格:1,030円(税込); ページ数:50p(Cards 版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0761112065/
Painters: Masters of Western Art (Fandex Family Field Guides)
著者:Carolyn Vaughan
出版社:Workman Pub Co; &nbspISBN:0761123598 ; (2001/09)
本体価格:1,030円(税込); ページ数:50p(Cards 版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0761123598/


音楽室のヴィバルディの肖像画。ふわふわとした髪をリボンで結い、レースのブラウスを纏いウィーンの緑を歩く彼の姿を思い浮かべながら、「四季」を聴きました。美術の教科書で出会った赤い髭、帽子と青いジャケットのゴッホの自画像。ゴッホ独特の筆タッチを覚え、こんな絵を描くのはどんな人物なのだろうと想像しました。誰もが子供のころそんな経験をしながら、純粋に芸術を愉しんでいたのではないでしょうか。でも、いつごろからか、芸術家や作品に出会い対話することを、難しく特別なことのように思い込んでしまってはいないでしょうか。
『Composers』『Painters』は「FANDEXR®」シリーズの中の2冊で、名前のとおりfan(扇)に広がるインデックス(カード)形式の絵本で、それぞれに作曲家、画家が50名ずつ紹介されています。各カードの上部はその作曲家や画家の肖像画、自画像またはポートレート写真で、その形に切り取られており、その顔の下と裏面には芸術家の生涯、主な作品、背景の物語や出会いなどの物語と、関連する絵画や写真が巧みに配置されています。50枚のカードが色鮮やかに並べられ、手の平ほどあるその顔の重なりは、まるでそれぞれの個性がにじみ出ているようです。米国で子供の教育向けにつくられたシリーズなので、慎重に選ばれた単語とシンプルな構造で書かれ、とてもわかりやすい文章になっています。
では、『Painters』のゴッホを開いてみましょう。4年前、「クレラー=ミュラー美術館所蔵ゴッホ展」が開催されました。一堂に展示された作品を前に、ゴッホはもっとも素晴らしい“光を描く”画家だと私は感じました。ひまわりの黄色に象徴されるように、ゴッホの色調は多くの光を含んでいますが、それ以上のなにかがあると思いました。『Painters』では、“He applied thick paint in broad, swirling brushstrokes to convey the spiritual power of nature, and he used color for its expressive, symbolic meaning.”と表現しています。“swirling brushstrokes”――渦巻くような筆づかい。この表現に、ゴッホの光を思い出します。そしてゴッホが、本の中から起き上がり、私に語りかけてくるように感じます。
次に、『Composers』の扇を広げてみます。バロックのヴィバルディやヘンデルから始まり、ブロードウェイで知られるガーシュイン、20世紀さいごの交響曲作曲家ショスタコーヴィッチまで、50名紹介されています。子供の頃バイオリンを習いはじめ、メヌエットやガボットを卒業し初めて練習した協奏曲が、ヴィバルディの「バイオリン協奏曲イ短調」でした。ある先生との出会いをきっかけに昨年レッスンを再開し、”Back to the basic.”と指定されたのがこの曲でした。『Composers』に“His reputation rests on more than 400 surviving concertos for violins, strings, flute and other instruments”とあるように、バイオリンや弦楽器などの協奏曲で知られるヴィバルディ。とりわけバイオリンの技法と教育にも関心があったと知り、子供のころは指を動かし音符を追うのに懸命だった私も、今はヴィバルディと、そしてバイオリンという楽器との対話を楽しんでいます。
バッハ、ベートーベンへとつづき、ブラームス、ドヴィッシー、レスピーギ・・・。50名の作曲家が時系列で並んでいるので、『Composers』を扇の順に読んでいくと音楽史の流れや時代背景を知ることができます。さらに、馴染みのある偉大な作曲家たちが、お互いに影響を与え合い受け継いでいく様子もうかがい知れます。作曲家たちの会話や、時代の衣装をまとった観客の拍手が聞こえてくるかのように、読む人の自由に情景が広がっていきます。
「人はただ自分の愛する人からだけ学ぶものだ」。斎藤孝さんが著書『座右のゲーテ』で紹介しているゲーテの言葉のひとつです。愛する人とは性分にふさわしい人のこと、それは「その人の思想や主張がスルスルと体に吸収されていくような相性のよさを感じる人」です。そして斎藤さんは、そんな人を意識的に上手に選ぶことが大事なのではないかと述べています。また、林望さんは、著書『芸術力の磨き方』の中で「主体的に芸術と関る」ことをすすめ、ご自身も「声楽」に取り組まれています。そして、「まずは好きなものを深く探求することから」、と私たちを芸術の世界へと導いています。
それでは、どうしたら愛する人、好きなものに出会えるのでしょうか。
いま、「あらすじで読む・・・」、「要約・・・全集」といった本が人気です。「・・・名盤100選」、「・・・への招待」もすっかり馴染みのあるものになりました。流行の一方で、手っ取り早く知識を得ようとするのは安易だ、そんな批判は常につきまといます。林さんの言葉どおり、「手引書や入門書は読み方次第で毒にも薬にもなる」ものです。画家の悲劇的な生涯を読んで単に感傷に浸る絵画鑑賞をしたり、唯一の正しい鑑賞の方法を手引書に求めたりと、読み方によって毒になることも少なくありません。けれども、こうした本を手に取り、懐かしいまたは読み損ねていた文学作品に出会ったり、名盤から特別な1枚を見つけたとしたら、本や名盤をきっかけに美術展やコンサートへ出かけ、本物の絵や生演奏を心から楽しむことができたとしたら、それはとても幸せなことに違いありません。この「FANDEX®」もガイドではありますが、芸術家の人生や作品の背景にある物語を、読者の感性・嗜好を左右するような過剰な脚色をすることなしに客観的に伝えているため、解釈や理解方法の押し付けをしません。これも、子供の個性と感性を重んじる米国生まれの本だからこそでしょう。
自分の目や耳で芸術を観察し、自分の頭で考え、心で思う。私はそんな「対話」こそが、林さんのいう「芸術と主体的に関る」ことであり、そして出会った人・作品を愛することなのだと思います。皆さんもこの夏、ご家族とご一緒に、ご旅行の前に、「FANDEX®」を手にとってみてはいかがでしょうか。そして、ちょっとした芸術家との出会いと対話をしてみませんか。
★「FANDEX®」シリーズには、The Body(身体)、Trees(木の種類)、Presidents(歴代大統領)、Shakespeare(シェイクスピアの作品)、Cats(猫)など計21種類が出版されています。First Ladies(ファーストレディー)、Mythology(神話)、Mummies(ミイラ)といった個性的なものもあります。いずれもAmazon.co.jpで購入することができます。
★出会いと対話を考えるきっかけとなった2冊の本、斎藤孝さんの「座右のゲーテ」、林望さんの「芸術力の磨きかた」もあわせて手にとられてみてはいかがでしょうか。
『座右のゲーテ』斎藤孝 光文社新書 2004年
http://item.rakuten.co.jp/book/1671417/
『「芸術力」の磨きかた』林望 PHP新書 2003年
http://item.rakuten.co.jp/book/1567342/
(湯川 真理)

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