KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2004年10月12日

『グッドラック(Good Luck)』 / 『雨の降る日曜は幸福について考えよう』

グッドラック(Good Luck)
著者:アレックス・ロビラ /フェルナンド・トリアス・デ・ベス; 訳者:田内志文
出版社:ポプラ社; &nbspISBN:4591081451(2004/6)
本体価格:952円 (税込1000円); ページ数:119
http://item.rakuten.co.jp/book/1683313/
雨の降る日曜は幸福について考えよう
著者:橘 玲
出版社:幻冬舎; &nbspISBN:4344006712 (2004/9)
本体価格:1,600円 (税込1,680円); ページ数:239
http://item.rakuten.co.jp/book/1708754/


今回は「幸運」と「幸福」に関するベストセラー2冊を取り上げてみた。
まず1冊目はスペインで大ブレイクした後に今や世界50か国で出版され、国際的ベストセラーになりつつある「グッドラック」をご紹介したい。メルヘンティックな装丁で表紙には四つ葉のクローバーが描かれており、男性は手にとってみるには気恥ずかしいかもしれないが、老若男女を問わず誰もが読める本だ。本を開いて中をざっと見ると、一昔前にベストセラーになった『チーズはどこへ消えた?』に雰囲気がどことなく似ている。
素朴で短いストーリーなので昼休みにでも一気に読めてしまう。公園のベンチで幼なじみのジムと54年ぶりに再会したマックスは、仕事も財産もすべてを失い変わり果てた友人ジムに、祖父から聞かされた「魅惑の森でクローバーを探す2人の騎士の物語」を語り始める。幸運を掴む騎士と掴み損ねる騎士の行動を対比しながら物語は進む。
この挿話の部分は小学生でも読める平易な物語であり、ビジネスの最先端でバリバリ活躍されている人にとっては、「何だこの軟弱な話は」と思われるかも知れない。しかし本書は、大型書店では一般文芸書のコーナーのみならず、ビジネス書のコーナーにも置かれていることに注目したい。著者についても簡単に紹介しておこう。二人の著者は小説家や童話作家ではなく、マーケティングのコンサルティングファームを経営するMBAホルダーなのだ。アレックス・ロビラはマーケティングの専門家で心理学や民俗学にも造詣が深い。フェルナンド・トリアス・デ・ベスは、経済学者兼マーケティングの専門家で、あの有名なコトラーとの共著もあるようだ。そこで、寓話として読むのではなく、MBAのケースとして読むことも可能だ。どんな設問を立てて、どんな議論をしたらよいか考えてみると面白い。「幸運は待っていても駄目」という単純な結論だけなら、さほど目新しい教訓ではない。ビジネスパーソンであれば、少し深読みすることでいろいろ示唆が得られるのではないだろうか。
“あとがき”に目をやると「この本を書くのに八時間しかかからなかった。だがこの本を考えるのに三年もの月日がかかった。」とある。筆者がどこに精力を費やしたのかは述べられていないが、このことは意味深長だ。この本を読むのに一時間もかからないが、ひょっとするとこの本の真の価値が解るのには何年もの月日がかかるのかも知れない。ともあれ、簡単に読めるというのは、何回も読めるということだ。あたかも幼児が気にいった絵本を手垢でまみれるまで読むがごとく反芻すると、今までとは違う何かが自分の中に生まれ、心に何かが定着するかも知れない。
本書は幅広い層に受け入れられる要素があるが故にベストセラーになっているのであろうが、私としては、次の方々に特にお薦めしたい1冊である。情熱とロマンを持って日々闘っている研究開発者の方、悩みや迷いを抱えているがサクセスストーリーや自己啓発本は嫌だという方、そしてたまには親子で人生について話し合うきっかけが欲しいと思っている方に。
さて、もう1冊は、発売されて間もないがビジネス街でベストセラーランキング上昇中の「雨の降る日曜は幸福について考えよう」で、1冊目とは趣の異なる本だ。1冊目が「癒し系」とすれば、2冊目は「激辛系」だ。
「自分と家族のささやかな幸福を実現することは、それほど難しくない。必要なのはほんの少しの努力と工夫、自らの人生を自らの手で設計する基礎的な知識と技術だ。」と本書の帯に書かれている。
目次には人生設計・生命保険・年金・医療・教育・不動産・資産運用などの項目が並んでおり、一見するとよく在るライフプランの指南書のように見えるが、そうではない。ノウハウを期待して読むと期待を裏切られるので要注意だ。家計を営むうえでの基本的な考え方やセオリー、陥りやすい落とし穴などを解説しながら、人生設計や福祉のあり方について問題提起を展開している。文脈の背後には著者の一貫した思想や価値観を垣間見ることこともでき、一種の啓蒙書または教養書として捉えた方がよい。
本書は個人の人生設計に密接に関わる諸サービスのあるべき姿や市場メカニズムと消費者心理について、本質的な事を単純化して分かりやすい事例を用いて説明している。冷徹な分析と辛口の論調でズバズバ斬ってゆくので、小気味がよい。人生設計のプロセスで、ともすれば既成概念や風潮を盲目的に受け入れてしまう愚かさへの警鐘を鳴らしているが、具体的にどうすれば良いかは書いていない。それは、万人向けの正解などは無く、個々人に最適な選択肢を得るには、基礎的な知識と技術を自ら学び、自ら考える努力をする事が大切だということなのだろう。年金問題に象徴されるようにこれからは自己責任・自助努力の時代が到来する訳で、まさに時宜を得たお薦めの1冊である。 雨の降る日曜は本書を読んで、夫婦でゆっくり考え、話し合ってみるのも悪くはないかもしれない。
2冊の本のいずれを選ぶにせよ、これで「幸運」や「幸福」をゲットできれば安いものだが、そう甘くはないと思う。この本を契機として、まずは自分なりに時間をかけてじっくり考え、次に今すぐ何か行動を起こしてみることが”幸せ”へのキー・アクションになりそうである。
(柴田浩平)

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