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桑畑 幸博「交響曲オールスターで打線組んだ」

2020年01月14日

「○○で打線組んだ」とは、主に5ch(旧2ちゃんねる)の「なんJ」板発祥のネットスラングで、様々な事象について野球の打線に当てはめ、ネタとして楽しむものです。

野球以外のネタも多く、たとえば以下のようなものがあります。

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「60代の邦楽ミュージシャンで打線組んだ」

1.(二) 桑田佳祐
2.(右) 松山千春
3.(遊) 松任谷由実
4.(一) 中島みゆき
5.(三) 山下達郎
6.(左) 佐野元春
7.(捕) THE ALFEE
8.(中) 浜田省吾
9.(投) 郷ひろみ

中継ぎ・竹内まりあ・矢野顕子・世良公則・鈴木雅之・長渕剛
抑え・野口五郎

監督・小林幸子
ヘッドコーチ・さだまさし
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ポイントは打順と守備位置が選出した対象のイメージに合っているか。また、もっとふさわしい対象が抜けていないか。その分野のオタクが「うまい!」と言えるかどうか、それが問われます。

そのような遊びですから、ネットに上げた後「いやそれなら」と、様々な異論が出てきます。しかしそのやり取り自体が「面白い議論」になることも多く、ネットならではのひとつのエンターテインメントとも言えるでしょう。

さて、前置きが長くなりましたが、てらこやの「今月の一冊」で私は過去に何度かクラシック音楽を取り上げています。
ということで今回は、私の好きな交響曲、それもすべて作曲家(チーム)を変えたいわゆる「オールスター」で、さらに曲の番号も重複しないように打線を組んでみました。
また、イメージするプロ野球選手も独断で選びました。

さらにそれぞれ簡単な曲の解説とオススメの演奏も付けておきます。ちなみに指揮者とオーケストラもすべてダブリなし!、多彩な演奏が楽しめます。

ぜひ、クラシックファンも野球ファンも、そしてそうでない方も、これを機会に一度聞いていただければ幸いです。

そしてクラシックファンの方は「いや、自分ならこういう打線にする」とも考えてみてください。

では始めましょう。

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1番ショート

シューマン:交響曲第4番

交響曲としては30分弱と短いながらもメリハリさと流麗さを兼ね備えているので、俊足巧打のイメージが強い1番バッターにはうってつけ。
さしずめ西武ライオンズ時代の松井稼頭央選手でしょうか。

特に第1楽章の展開部は何度聞いてもゾクゾクするので、未聴の方にはぜひ聴いていただきたい1曲です。

打順に見合う少し速めのテンポながら、重厚かつロマンチックな演奏が楽しめる、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮、シュターツカペレ・ドレスデンで。

2番セカンド

シベリウス:交響曲第2番

フィンランドを代表する作曲家のシベリウス。彼の「フィンランディア」は第二国歌とまで言われていますが、そのシベリウスの作品の中でも最も演奏される機会が多いのが、この交響曲第2番です。

冒頭の北欧の「冷気」すら感じられる弦の響きに始まり、幻想的なエレジー、高揚感の強い終楽章と、様々な顔を見せるこの名曲は、守備の名手かつバントにヒットエンドランなど小技のできる二塁手と言えます。
今の広島を守備で支える菊池選手がイメージに近いですね。

正確な演奏でありながら美しい響きのヘルベルト・ブロムシュテット指揮、サンフランシスコ交響楽団の演奏で聴いてみてください。

3番センター

ベートーヴェン:交響曲第7番

数多くの名曲を残しているベートーヴェンですが、長打も打てる俊足スター、の3番センターならこの曲でしょう。イメージするのは西武ライオンズの秋山幸二選手です。

この曲は「のだめカンタービレ」で一躍有名になりましたが、親しみやすいメロディと疾走感は何度聴いても私たちを興奮させてくれます。演奏会での終楽章のラストと、それに続く「ブラヴォー!」は、まさにサヨナラムホームランの出た球場のようです。

この曲はやはり、カルロス・クライバー指揮、バイエルン国立管弦楽団のライヴ音源で聴いていただきたいです。

4番サード

マーラー:交響曲第3番

約100分の重厚かつ長大なこの曲は、まさに全打席ホームランが期待される4番バッター。
プレイヤーとしては、ジャイアンツの若き4番、岡本選手を期待を込めてチョイスしました。

マーラーが世界全体を1曲に集約しようとしたかのような曲で、第1楽章の勇壮さから第6楽章の美しさまで、飽きることなく時間が過ぎていきます。第5楽章の冒頭は、少年合唱団の「ビム・バム」と教会の鐘を模した歌から始まりますが、ここの可愛さも「ビックベイビー」と呼ばれる岡本選手にピッタリです。

名盤は多いのですが、生で聴いて最も感動したリッカルド・シャイー指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏をオススメします。

5番ファースト

ブルックナー:交響曲第8番

マーラーの3番に負けず劣らず重厚長大なこの曲は、やはり長打が魅力の5番バッター。
平成唯一の三冠王である、ダイエー/ソフトバンクホークスを支えた松中信彦選手。4番小久保、5番松中のコンビは最強でした。ちなみにこの時期、ホークスには井口、城島と4人もの日本人スラッガーが揃っていました。

重々しい第1楽章から始まり、美しい第3楽章を経て、「闇に対する光の完全勝利」と言われる第4楽章最後の「ミレド」で終わると、「ブラヴォー!」と叫びたくなります。やはりこうしたフィナーレとホームランは同じですね。

ブルックナーと言えばこの人、セルジウ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団でじっくり聴いてみてください。

6番レフト

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

クリーンナップではなくてもホームランも期待でき、そして守備でも貢献する。そんなレフトと言えば…とさんざん悩んで私が選んだのが、阪急ブレーブスの簑田浩二選手。決して肩が強いわけでもないのに、守備位置と送球の正確さで「二塁打を単打にする」と評されました。

そんな箕田選手にふさわしいのは、ショスタコーヴィチの5番。特にテンポが何度も変わる終楽章は、打者と状況によって守備位置を細かく変える彼のようです。

ムラヴィンスキーなど、ロシアの指揮者の名盤も多いですが、今回は昨年亡くなったマリス・ヤンソンス指揮、バイエルン放送交響楽団の演奏をチョイスしました。氏が日本で行ったベートーヴェン交響曲全曲演奏会の映像は私の宝物です。

7番ライト

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

以前は「ライパチ」という言葉もあったように、8番ライトはチームで最も力の落ちる選手の代名詞でした。しかし近年ではライトの守備力がレフト以上に重要であることが周知されてきました。
そしてライトの名プレイヤーと言えばやはりイチロー選手。7番は実のところあまり打っていないのですが(笑)

そしてイチロー選手のイメージで私が選んだのが、チャイコフスキーの6番です。全6曲の交響曲で最も高く評価されているこの曲、「悲愴」という副題の通り暗い序奏から始まり、最後も静かに、消え入るように終わります。イチローに合わないようにも思えますが、私はこのエンディングこそ、彼が選手として最後まであがいた姿と重なって見えるのです。

この曲はやはり、エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団で堪能しましょう。私のオススメは、あえて名盤と評価の高い1960年版でなく、枯れた1983年の録音です。

8番キャッチャー

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

扇の要、キャッチャーにはドヴォルザークの9番を。この曲は、チェコ生まれのドヴォルザークがアメリカで音楽学校の学長として招聘されていた時代に作曲されました。アメリカの黒人の音楽が故郷ボヘミアの音楽に似ていることに刺激を受け、「新世界から」故郷ボヘミアへ向けて作られた作品だと言われています。第2楽章は「遠き山に日は落ちて」と歌詞を付けて日本でもお馴染みですね。

私がイメージしたのは野村克也選手です。選手と言うより監督のイメージが強いですが、南海からスタートし、選手・監督として多くの球団を渡り歩いた姿がドウォルザークとダブります。

この曲もやはりドヴォルザークの故郷チェコの指揮者とオケで、ということでヴァーツラフ・ノイマン指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団がイチオシです。

9番ピッチャー

ブラームス:交響曲第1番

いよいよエースの登場です。私が選んだのはブラームスの1番。21年の歳月をかけて完成したその曲は、「ベートーヴェンの交響曲第10番」とも呼ばれ高く評価されました。
ティンパニを伴った重々しい序奏から始まり、壮麗なフィナーレで幕を閉じるこの曲は、まさに交響曲の一つの完成形と言えるでしょう。

誰が最高のピッチャーか、これは永遠の論点でしょうが、ここでは野茂英雄投手を推します。
社会人野球でようやく花開き、8球団競合のドラフトで近鉄に入団、そして新人ながら最多勝利・最優秀防御率・最多奪三振・最高勝率と投手四冠を独占した野茂。しかし球団との確執でメジャー挑戦、そしてまた大活躍と、この曲にふさわしいドラマがあります。

指揮者のエースと言えばこの人、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の1977年の演奏をオススメします。

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では、これくらいにしておきましょう。
本当は指名打者としてベルリオーズの幻想交響曲、監督にハイドンの交響曲第104番「ロンドン」、ヘッドコーチとしてモーツァルトの交響曲第39番も考えていたのですが、好きなクラシックと野球の話はどうしても長くなります(笑)

(桑畑 幸博)

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