今月の1冊
2021年11月09日
矢尾 いっちょ『どっちですか?愛川さん』
今回ご紹介したいのはWebマンガ。タイトルは『どっちですか?愛川さん』です。
ちなみに画像は作者である矢尾先生の許可をいただいて転載しています。
主人公は(たぶん)高校生の「正保(まさやす)」君。(名字不明)
ヒロイン(?)は同級生の「愛川 真生(まお)」さんです。
タイトルの通り愛川さんは性別不詳。
制服も日によってズボンだったりスカートだったり。しかし美形かつスポーツ万能、そして優しいので、正保君は惹かれていきます。
そこで気になるのは、愛川さんの性別。
先の画像の最後で帰宅中の正保君と愛川さんの後を付けて歯がみしている、同じく同級生の新田さんや帰宅部仲間の吉沢君とあの手この手で愛川さんが男か女か確かめようとします。
基本ギャグ漫画でゲラゲラ笑える場面も多いのですが、それだけではない「今の時代」だからこそ読者に考えさせてくれる作品です。
直接「どっち?」と聞いても「ひみつ」と教えてくれない愛川さん。
でも常に他人を思いやり、友達のいなかった新田さんも救います。
まあそのせいで新田さんは愛川さんを崇拝し、ストーキングまがいの行動までしてしまうわけですが、新田さんも正保君を応援する「変だけどいい人」なんですよ?
美形で明るく優しい愛川さんですが、そのために過去に何度観つらい経験をしていたことも作中では語られます。
「ばーちゃん…僕は 男子も女子もみんなこわいよ」と泣く愛川さん。私も胸が締め付けられました。
そしてその事実を教えてくれた愛川さんのおばあちゃんは、「あの子がどっちか教えてやろうか?」と正保君に告げます。
でも彼はその申し出を断るのです。
嗚呼、カッコ良すぎるぞ正保!!
……すいません。ちょっと熱くなりました(笑)
しかし私は思うのです。
「性別」ってなんなのだろう?
子孫を残す以外に、性別の意味がどこにあるのだろう?
そして、なぜ私たちは「人を好きになる」のだろう?
何がどうなったら「人を好きになった」と言えるのだろう?
もちろんそこに唯一の「正解」はありません。
言わば「哲学的な問い」です。
本作は時代の論点である「ジェンダー問題」について考えさせてくれますが、他にも「哲学的な問い」が必要な論点はいくつもあります。
何の/誰のために働いているのか?
子どもや100年後の人たちのために、何をどう変えるべきか?
そしてそのために、自分にできることは何か?
私たちは、与えられたものや状況を深く考えずに受け入れていないでしょうか。
自分が変えられることも、見過ごしたり見逃したりしていないでしょうか。
そもそも他人任せで、自分の頭で考えることを放棄していないでしょうか。
…そんなところまで考えてしまう。
私にとって本作は今年一番の「神作」となりました。
とは言え、私は皆さんに「深く考えながら読め」と言うつもりはありません。
純粋にエンターテインメントとして本作に触れてほしいのです。
作品は全てPixivで無料公開されています。
なぜかいつも窓から正保君の部屋に入ってくる新田さんの言動に笑い、兄である正保君をシバきつつも背中を押してくれる妹の文香ちゃんに癒やされ、そして正保君と愛川さんを「尊い…」と見守る。
本作の中身のように、「多様な読み方」をしていたたきたいと思います。
正保君は今も悩み続けています。
しかし彼は悩むことから逃げません。
私はそんな正保君と愛川さん、そして作者をこれからも応援し続けたいと思います。
(桑畑 幸博)
登録
人気の夕学講演紹介
2025年1月16日(木)18:30-20:30
客観性に閉じ込められる私たち
村上 靖彦
大阪大学人間科学研究科 教授
感染症総合教育研究拠点CiDER 兼任教員
客観性とは何なのでしょうか?エビデンス信仰の風潮が強まる昨今、見落としているものを『客観性の落とし穴』の著者・村上氏に学びます。
人気の夕学講演紹介
2025年1月24日(金)18:30-20:30
教養としての仏教:苦しみをどう超えるのか
柳 幹康
東京大学東洋文化研究所 准教授
家庭の仏壇や供養の儀式、あるいは観光旅行での古寺巡礼など、仏教は比較的身近な存在でありつつ、知っているようで知らない奥の深さもあります。仏教学の専門家より教養としての仏教を学びます。
いつでも
どこでも
何度でも
お申し込みから7日間無料
夕学講演会のアーカイブ映像を中心としたウェブ学習サービスです。全コンテンツがオンデマンドで視聴可能です。
登録