KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2005年01月11日

『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』

著者:鴻上尚史
出版社:講談社; ISBN:4062738856(2003/11)
本体価格:448円 (税込470円); ページ数:217
http://item.rakuten.co.jp/book/1613954/


あなたは普段、何種類の声を持っていますか?
単純な私はこの問いに「何をいまさら、声なんて生まれつきだから1種類ではないか」と。しかし、鴻上氏の著作に出会った今は・・・・
新年にあたり今年の抱負を胸に仕事始めを迎えた方が多いと思われる。今年はどんな新しいことに挑戦されるのだろうか。慶應MCCの受講生の皆さんに限らず、たくさんの方が忙しい日常業務の中で自分を高めるために貴重な時間とお金を自己投資されている方は多いと思う。決してその意欲をそごうとしているわけではないが、あなたがすでに獲得した知識や経験、さらに自分自身の体の中にある全てのものを「有効に創造的に使う」ことで何倍にもあなたの幅が広がり新たな自分を開拓していただきたく『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』をご紹介したい。
著者の鴻上氏は、早稲田大学在学中に劇団『第三舞台』(現在、活動封印中)を設立し、役者指導、ラジオ・テレビの司会、映画の監督・脚本など幅広く活躍している。多くの役者を育てる中で、彼は『「顔」や「髪型」「服装」と同じように、どうして、自分の「声」や「体」「感情」「言葉」に気を使わないんだろうか』と疑問だった。これについて彼は、日本人は自己表現が下手だといわれている理由と同じで、「表現」ということがどういうことか良くわかっていないからだと言う。本書は、その疑問を出発点に、「声」「体」「感情」「言葉」の4つのキーワードを分析し、俳優やモデルといういわゆる表現者でなくとも、誰もがいかに自分の持ち味として有効に利用できるかを紹介している。
たとえば、魅力的な声とはどういう声なのか。話の内容を魅力的にするのではなく、生まれもった自分の声を意識してどう創造的に使うかだと著者は説く。今までの方法としては、「自分に自信を持つ」「好奇心旺盛になる」「自分を見つめる」など内面からのアプローチであったが、魅力的な声にする方法とは「声に表情を持たせる」ことだと。第2章で著者が挙げている「声の5つの要素」がキーとなって声の表情が浮かび上がってくるのである。「声の5つの要素」とは、 (1)声の大きさ(2)声の高さ(3)声の速さ(4)声の間(5)声の音色である。上記の5つの要素に変化をつけて声にだしてみて欲しい。たとえば、大きな声で「魅力的な声ってどんな声なの?」と言う場合と、ものすごく小さな声で「魅力的な声ってどんな声なの?」と言う場合では、明らかに言い方は違う。大きさは同じでも声の高さや速さを変えるだけでも異なった印象を与えることができる。変えた要素の種類分だけ声に表情ができることを実感できるはずである。発する声が魅力的であれば、無意識で発生している声で話すときと比べて、素晴らしい内容であったと印象づけることができるという。ぜひ、「声を遊ぶ」と「声で遊ぶ」を体感して自分の声に何種類の表情があるのかを発見していただきたい。
さらに、著者は、自分自身の内面と内面を表現する技術はインタラクティブであると言う。感情があってある1種の表情の声になる場合もあれば、逆にある1種類の声をだしてみてそれに合った感情があとからわき出ることもあるという。つまり、声に表情を持たせることによって感情や表情も豊かになれるのだからこそ、声に魅力を演出することは大切なのである。
同様に、「体」「感情」「言葉」についてもそれぞれの要素を紹介している。
著者は、普段気を使わない「声」「体」「感情」「言葉」を表情あるものにしようと努力することは、チャンスをものにしたい、人生を切り開きたいと思う気持ちに対して、みなさんが日常的に投資し努力することと同じくらい、人生を豊かによりよく生きることができるアプローチの1つだと提案しているのである。つまり今まで1つしかないと思っていた自分の持ち味も意識的に表情をつけることで、異なった持ち味として印象付けることができると言っているのである。
実際に、なぜか努力に見合った評価が得られないこともしばしばある。もう少し自分は評価されてもいいのではないか。こんなジレンマに陥ったことがないだろうか。それは、もしかしたら、自分の持ち味を1つの表情でしかみせられていないからではないだろうか。もっと違う表情のみせ方を工夫すれば評価もまたかわってくるかもしれない。
私が本書を手に取ったのは数年前、それはアマチュア競技ダンスのファイナリストをめざしている時だった。その頃は、私はダンスが上手くなればファイナリストになれると思い、より高い技術を追い求め、自分の強みに磨きをかけ、人の何倍も練習し、「どうだ、うまくなったでしょ!」と見せつけてみたものの、あと一歩のところでどうしてもファイナリストの中に食い込めないでいた。そんな中、プエルトリコ人のコーチに「スピンは10回なんていらない、1回でいい。君たちに技術はもういらない。君たちに必要なのは、1回のスピンを「素晴らしい1回」として表現すること。あのロシア人はとっても上手い。だけど、あなたは僕と同じ黄色い肌で、あのロシアのロボットのような踊りをしても評価はされない。君たちは日本人であり、前田組らしい踊りを探しなさい」と指摘された。
非常にショックだった。より高い技術を付加する必要はなく、むしろ削らなければならない。いままでやってきたことが無駄だったのかという残念な気持ちもあったが、それよりも怖かった。1回のスピンが10回の華やかさより目を惹くことができるのか?そんなことで本当にファイナリストになれるのか?この不安と疑問をとく手がかりとなったのが、この1冊だった。
この本によって、ファイナリストになることもできたが、むしろもっと大事な本来の自分自身を、どうやってダンスに活かし、本物として表現できるかを知ったのである。
私の今年の目標は、仕事と初の育児をどうバランスとっていくかということ。仕事面での新しい知識や経験を蓄積することは今までと同じようにはできないと思われる。しかし、新しい持ち札・カードを増やすばかりでなく、自分自身が既に持っている持ち味を「有効に創造的に利用していく」ことで新たな自分の生き方の表情を増やしたい。
本書は、ビジネスの場面でも日常でも使える、自己アピールの仕方という点で、1つのヒントを提示している。新しいものを自分の中に取り入れるだけでなく、いままで自分が気づかなかった自分自身の持ち味を、豊かに表現することで、より魅力ある特長として活用することができ、今まで以上に自分に自信をもって人生を楽しむことができるのではないだろうか。
(前田祐子)

メルマガ
登録

メルマガ
登録