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甲斐 みのり『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』

2022年05月10日

歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ
著:甲斐 みのり; 写真:鍵岡龍門; 出版社:エクスナレッジ; 発売年月:2018年6月; 本体価格:1400円

大切な人と行くレストラン、カフェ探しに悩む。お出かけコースがマンネリ化してきてつまらない……。
そんな時は、名建築、しませんか?

名建築と言われる洋館やビルは意外と身近な街中にあり、ホテルやレストラン、文化会館や美術館として人々を迎え入れています。知らずに入って、パッと食べてサッと出てしまったレストランが実は名建築だった、なんてことがあるのです。知っていれば玄関口から鑑賞ポイントたっぷりで、美しい天井や壁の装飾などを眺めながら、建築の由来やひいきにしていた偉人たちなど歴史的エピソードで盛り上がり、美的知的な刺激で心もお腹も大満足。そんな時が過ごせるかもしれないのです。

では、そんな美味しい時間が過ごせる名建築はどこにあるのでしょう?
オススメは甲斐みのりさん著『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』で探すこと。
<丸の内・日本橋・銀座エリア><品川・渋谷・六本木エリア><上野・皇居周辺エリア><新宿・池袋・その他エリア>に分けて合計25の名建築とその中のカフェ、レストランが紹介されています。

例えば東京は銀座なら、現存する日本最古のビヤホール。銀座通りに面したビヤホールライオン銀座7丁目店。
「え?」と思った貴方。銀座ライオンビルは2022年2月に国の登録有形文化財(建造物)として登録された、れっきとした歴史的建造物なのです。
メニューを並べたフレンドリーな店先を抜けて一歩店内に踏み入れてみれば、その圧倒的な内装にすぐ納得されるのではないでしょうか。
駒澤大学旧図書館の耕雲館や旧新橋演舞場を手がけた菅原栄蔵氏の建築、竹中工務店の施工により1934年(昭和9年)に創建された「理想のビヤホール」は細部に凄まじいほどのこだわりがあります。

ビヤホールらしく、豊穣と収穫にちなむ意匠が随所に。球状の照明は、白がビールの泡で、色付きはブドウをイメージ。緑の柱は大麦の穂で、茶色の壁は大地。カウンター向こうの大壁画には、ギリシャ風の衣装で大麦を収穫する婦人が描かれ、約250色のガラスタイルを使用。完成までに約3年の歳月が費やされた

と紹介された大壁画は、縦2.75m 横5.75mもあるガラスモザイク。建築家の菅原氏が作画し、ガラス工芸家の大塚喜蔵氏が制作したものです。使われているのは250色のタイルですが、満足のいく色を出すために4万6千もの色ガラスを焼いたと伝わっています。その厳選されたタイル、じっくり見たくなりますよね。遠くから眺めて壁画の美を感じ、近くで見上げて一つひとつの色味を堪能していたら、お料理を待つ時間が短く感じられました。
柱や壁面のタイルは、瀬戸の陶芸家小森忍氏の手によるもの。陽光に煌めくビールのような黄金色はヒンヤリと不思議な質感で輝き、実に魅惑的で、つい手を伸ばして触れたくなってしまいます。
他にも花々のモザイク画や床のタイルなど鑑賞ポイントが盛りだくさん。これらの「美」と、職人さんが一度注ぎの技で入れてくださるビールの「美味」との間でたゆたいながら、豊穣なひと時を楽しめることでしょう。(下戸の私も美とガツンとくるお料理で楽しめました)

続いては、慶應丸の内シティキャンパスの斜め前に見える東京駅丸の内駅舎。
これもまた名建築で、日本近代建築の父と言われる辰野金吾氏の設計。1915年(大正4年)に誕生しました。その中に宿泊できる文化遺産、東京ステーションホテルがあります。

日本の玄関口らしく最先端の設備で、国内外の客人を迎えるヨーロッパスタイルのホテルは、川端康成ら多くの文豪に愛された。

残念ながら戦災で一部が壊れ、建築当初よりも一回り小さく再建されましたが、1999年(平成11年)に赤レンガ駅舎の保存・復元工事が決まったのです。

平成24年にリニュアルオープン。駅舎の典雅なドーム状の屋根がよみがえり、客室もより優雅に心地よく。
ドームの床。戦後の駅舎復旧工事で作られたジェラルミンと鉄板製の天井がモチーフ。

……ここまで読んで「泊まらずして楽しめないだろうか」と思った貴方。ご安心ください。ホテルに泊まらなくても、じっくり楽しめるところがあるのです。それがトラヤ トウキョウ、あの和菓子のとらやさんの喫茶室です。

ちょっと見ではわからない位置にありますので、行き方のご案内を。
まずJR東京駅の丸の内南口を出ます。すると前述したドームの床がすぐ目に飛び込んできます。床の模様の真ん中に立って上を見上げれば、駅であることを忘れる美しい八角形のドーム天井。鷲や子卯午酉以外の干支のレリーフが当初の通りに復元されて優美な姿を見せています。目線を戻して左側を見やると、一見気づかないような秘密の扉があり、それをくぐれば東京ステーションホテルのレストラン・エントランスです。専用エレベーターで2階へ。すると、先ほど立っていたドームの床モチーフを俯瞰できる円形廊下に辿り着き、人が行き交う1階を眺めながら道なりに進めばカフェに到着です。

(店内の壁は)戦災の跡が残り歴史を物語る創建時の赤レンガをむき出しに。電車や待合室のベンチシートをイメージした客席も。

その他に、2012年のリニュアルオープンまでは一般客が利用できなかった施設をレストランに生まれ変わらせた「ロビーラウンジ」もありますので是非。建築的美のポイントやおすすめの美味しい一皿について『東京のおいしい名建築さんぽ』で下調べをされると、さらにお楽しみいただけることと思います。

このように身近で楽しい名建築さんぽですが、ちょっと注意も必要です。それは、「そのうち訪れることができなくなるかもしれない」ということ。
例えば、本にも取り上げられている原美術館は、品川に“かつてあった”名建築でした。しかし老朽化のため閉館、建築は解体となったのです。
これはと思った所には、どうぞお早めに“名建築さんぽ”なさってみてくださいね。

(柳 美里)

歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ
著:甲斐 みのり; 写真:鍵岡龍門; 出版社:エクスナレッジ; 発売年月:2018年6月; 本体価格:1400円

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