KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

今月の1冊

2006年10月10日

ワーキングマザーのすすめ

先月末に出産を控えたスタッフが退職した。聡明で仕事もできる人だったので、大変残念な思いである。同僚として、同性としても働き続けながら母であるという人が増えて欲しいと願い、今回は慶應MCCでは唯一のワーキングマザーとなってしまった私が働き続けることに迷ったときに勇気をもらった本を紹介したいと思う。


最近は自分のキャリアをある程度形成してから出産を考えている女性が多いと聞く一方で、働きながら子育てができるかどうか不安だと思い躊躇されている女性も多いようだ。私のような凡才はそもそも働きながら子育てが自分にできるとも思っていなかったのだが、実際のところ案ずるより産むが易しだったと感じている。
つわりの苦しい精神的にも不安定な時期に、女医さんから「子育ては楽しいわよ。何にも知らずに子供は生まれるから、白いキャンバスに親が絵を描いていくのが子育てなのよ」と言われ、私は親の責任の重さに恐れをなしてしまった。そんな出産と子育てに対する不安を取り除き気持ちを楽にしてくれた本を紹介したい。
私たちは繁殖している』。題名も内容も紹介するには多少ためらわれるが、世間のいわゆる良妻賢母を絵に描いたような育児教本的な内容とは大きく異なり、妊婦期間、出産時、そして生後の子供の成長の様子が、仔細に書かれているが、漫画という形態で描かれることによって軽やかにとらえることができる。どこまでが作者内田春菊さんの実体験なのかと思うぐらい、主人公の破天荒な思考や行動が面白い。一方で、彼女の自然体の感覚が、自分の感じるまま、直感を信じて育児をすればいいのではないかと当時の不安を払拭する勇気を与えてくれたシリーズであった。
生後3カ月経ち、認証保育所に子供を預けて職場に復帰した。朝から子供の食事・支度に1時間以上を費やすことになり帰宅後も入浴・就寝と思うようにことは運ばず、気づけば1日が子供に振り回され、今日も何もできなかったと焦るだけの状態であった。そんな自分が悔しくて2児の母であり2社の社長でもある佐々木かをりさんの『佐々木かをりの手帳術』を手にとってみた。彼女の著書『ミリオネーゼの手帳術』は女性の間で一世を風靡していたが、その後に読者やセミナー受講者から受けた質問を反映し、時間管理術と手帳利用術をさらに詳しく述べたのが、紹介した『佐々木かをりの手帳術』である。
佐々木かをりさん流の時間管理術で、特筆すべきは、子育てと仕事の両立の考え方である。一日の中で子育てと仕事のバランスを取ろうとすること、また、他のワーキングマザーがそれができていると感じることが、自分を苦しめる原因となる、という。そして、1カ月や、2~3年といった、「ある時間軸の中で」の子育てと仕事の時間配分が、自分の望むようになっているかどうか、ということが大切だと、説く。こういう考え方に触れ、私自身も、子育てと仕事の両立を、子供が成人するまでの長いスパンで考え直すことができた。あわせて『ワーク・ライフ・バランスというのは、自分の精神状態をいう』(129ページ)の一言が、いままで仕事に費やせていた時間を子供にとられていると思い込んでいたジレンマを解消してくれた。24時間のうちに子供にかかる時間としてあらかじめ想定することで、焦っていた気持ちは非常に楽になった。
さらに、この思考の変換で仕事上に変化が現れたことに自分でも驚いている。同じ時間で仕事の量を増やし質を高めようと考えて仕事をしている自分がいつもいる。それまでも怠けていたつもりは全くないのだが、業務時間内で仕事を行うには、作業効率を上げるだけでなく抜本的に方法論を変更するなど、無駄のない究極の方法論がないかどうかを必死に考えている自分がいることに気づいた。子育ての時間を確保することが仕事の達成度合いを低めているわけでは決してないということを自分自身では感じている。
子育てに限らず、これからは親の介護の時期がきたり、なんの障壁もなく自分の時間を仕事だけに注力できるということは、誰にもないのではないか。私の経験を通していえることは、子供がいるから仕事ができないとあきらめてしまう前に、女性にはまずチャレンジしていただきたい。また、男性には、「手伝う・協力する」姿勢ではなく、日々の生活の一部として育児・子育てを取り入れていただきたいと願う。「手伝う」ということは育児は母親が行うものだという考えが前提になっているが、そもそも育児とは父親にも母親と同じように日々の生活についてまわるものなのではないだろうか。
子供の成長は楽しく、幸福をもらせてくれる。最近人気の子育てブログが本になった。笑いがおもわずこぼれてしまう『うちの3姉妹』(1)(2)をご紹介する。子育て中の方にはうなずける場面、これから子育てする方には子供の独創性を楽しんでいただける1冊である。ぜひ、1日のうちの数時間でもこんな日常を楽しんでいただけたら・・・
(前田祐子)

私たちは繁殖している』 内田春菊、角川書店
佐々木かをりの手帳術 -アクションプラン時間管理で人生がハッピーになる!』 
佐々木かをり、日本能率協会マネジメントセンター
うちの3姉妹』 松本ぷりっつ、主婦の友社

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