今月の1冊
2008年02月07日
のだめファンのためのクラシック入門
皆さん、この1月4・5日に放映された、「のだめカンタービレ! 新春SP」はご覧になりましたか?
私も原作・ドラマともに大ファンですが、この作品を通してクラシックに目覚めた方も多いのではないでしょうか。
しかし、「ドラマの時は感動したけど、やっぱりクラシックって苦手」「のだめのCDも買ったけど、音楽だけだと退屈」という方も多いようです。もちろん音楽の楽しみ方は人それぞれです。ですが、せっかく繋がったクラシックへのきっかけが、ドラマ終了後に切れてしまうのは、いちクラシックファンとしては、「もったいない」と思うのです。
そこで今回は、“のだめファン”の方々に対して、「もっとクラシックを好きになる」ための手ほどきを、お節介ながらやってみたいと思います。もちろん、のだめファンでなくても、「これからクラシック聴いてみようかな?」とお考えの方も、参考にしていただければ幸いです。
(1)1曲を丸ごと聴こう
当たり前ですが、ドラマでは曲のハイライトの部分しか流れません。しかし耳に残るさわりの部分だけでなく、1曲全てを通して聴くことで、「メロディとともに構成美を楽しむ」クラシックの醍醐味が味わえます。
のだめで一躍有名になった“ベト7”ことベートーヴェンの交響曲第7番にしても、ドラマで流れる1,4楽章の一部を聴くだけでは、この曲の本当の面白さは見えてきません。快活な1楽章の後、愁いを帯びながらも明快なリズムで感動を呼ぶ2楽章が静かに終わります(実はベト7で以前から評判が高いのは、この第2楽章だったりします)。その余韻を楽しんでいると、今度はミュージカルの場面転換のように踊り出したくなる3楽章が続きます。そして間髪を入れずに疾走する4楽章でエンディングになだれ込むからこそ、幸福感と興奮に我々は包まれるのです。
この流れや細部の構成こそが、クラシック、特に交響曲の面白さです。たとえば同じベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章の、主旋律がコントラバス→チェロ→ヴィオラ→ヴァイオリンと移動していく部分も、それをわかっていて聴くと、ベートーヴェンの構成力の凄さが理解できるはずです。
確かに交響曲1曲は長い(ベト7は相対的に短めとはいえ約40分)かもしれませんが、1度この聴き方にハマると、クラシックはあなたの生涯の友となるでしょう。
(2)一流の演奏を聴き比べよう
のだめオーケストラも悪くはありませんが、やはり世界の一流指揮者とオーケストラは別格です。そして一流の演奏を安価に手に入れたいのなら、実は全集がお薦め。ベト7なら、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、シュターツカペレ・ドレスデン演奏の、ベートーヴェン交響曲全集などいかがでしょう。
「ビロードのような音」と言われるオーケストラを、ブロムシュテットがじっくり丁寧に鳴らしています。「ベト7って、こんなに美しい響きだったんだ」と感じていただけるはずです。その他第5番《運命》や第9番《合唱付》も名演ですが、特に第6番《田園》は絶品! これだけの名演がCD5枚に詰まって2000~3000円で手に入るのは、本当によい時代だと思います。(ちなみに輸入盤のため、CDショップによって価格は異なります)
また、今回のドラマのラストで使われた“ブラ1”であれば、カラヤン指揮、ベルリン・フィル演奏の3枚組全集をお薦めします。ブラームスの交響曲は4曲しかありませんが、「どの曲にも一度は聴いたことのあるメロディがある」という名曲揃い。その名曲達を、ご存じカラヤンが最強のオケを従えて流麗かつゴージャスに聴かせてくれます。こちらはCD3枚組で2000円程度と、やはりお得です。
そしてクラシックのもう一つの醍醐味が、こうした名演を聴き比べることです。そうして自分の好きな指揮者やオーケストラ・演奏者を捜してみてはいかがですか?
ベト7なら、ぜひ一度カルロス・クライバー指揮のものを聴いてみてください。彼はこの曲をウィーンフィル、バイエルン国立管、ロイヤル・コンセルトヘボウと残して(コンセルトヘボウはDVDのみ)いますが、いずれも快速・溌剌・爆発と表現したくなる、痛快な演奏です。私は特にバイエルン国立管の演奏が、多少の粗やほころびをものともしない、ライヴならではの“爆演”で大好きです。この演奏を聴きながら、連ドラ最終回ラストの千秋&R☆Sオケのシーンを思い出すと、あの時の感動がよみがえります。
ブラ1ならジュリーニ指揮、ロサンゼルス・フィルを、前述のカラヤンのものと聴き比べると面白いでしょう。華麗なカラヤンに対して、ジュリーニは緻密かつ重厚な音作りに定評がありますので、その違いは歴然です。今回のスペシャルドラマでいえば、カラヤンがライバルのジャンで、千秋がジュリーニといった感じですから、あのふたりに置き換えて妄想しながら(笑)聴くのも、のだめファンならではの楽しみ方ではないでしょうか。
(3)良い音で聞こう
クラシック、特にフルオーケストラの曲はロックやポッブスと異なり、音域・音量とも1曲の中の幅が大きくなります。また楽器の種類・数も多いので、小さい音から大きい音、低い音から高い音、そして異なる楽器の音色を聴き分けるためにも、良い機材で聴くのが理想的です。
ですが、高級なオーディオを揃えなくとも、安価に良い音で聴く方法はあります。私がお薦めしたいのが、「良いヘッドホンを使う」ことです。特にiPod等を使って通勤電車の中で聴かれる方も多いと思いますので、音漏れの少ない耳栓タイプのカナル型ヘッドホンでお話ししましょう。
はっきり言って、iPod等に最初から付属しているヘッドホンはダメです。また、買い替えるにしても2000円以下の安いものでは、上記の理由からクラシックを聴くには適しません。お薦めなのは「1万円前後」のヘッドホンです。もちろんもっと高級なものもありますが、1万円前後であれば、今までと格段に音質が向上したことを実感できます。私も、3000円程度のものから約1万円のもの(KENWOODのKH-C711)に換えたら、その違いに驚きました。冗談抜きで録音されたホールの残響の違いまで識別できますし、「第1ヴァイオリンの主旋律の後ろで、チェロが渋く支えてる!」といった発見もありました。
(4)コンサートに行こう
こうして段々とクラシックの本当の良さがわかってきたら、やはり生で聴いていただきたいと思います。
実は東京ほど、毎日クラシックの良質なコンサートが開かれている都市は世界中どこにもありません。今週末にでもいかがですか?ライヴもできれば世界の一流オケを聴きたいところですが、はっきり言って「高い」です。海外オケ1回分で、国内の一流オケが2回聴けますから、まずはN響・日フィル・都響などの国内オケのコンサートに行かれるのをお薦めします。そうそう、2月3日から3月5日は、都民芸術フェスティバルの一環として、都内の8つのオケが、全て3800円(通常6000~8000円程度)で聴けます。この機会にぜひ!
また、毎年ゴールデンウィークに東京国際フォーラムを中心に開催される、『熱狂の日 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』も、お得なクラシックのイベントです。1プログラム45分とコンバクトなコンサートが、5つのホールで朝から夜半まで絶え間なく続きます。1プログラム1500円~3000円ですから、海外オケも含めて、たくさんのオケと曲が楽しめます。また、無料で聴けるコンサートや子供のためのイベントもあり、家族で楽しめます。今年は“シューベルトとウイーン”というテーマだそうです。私も昨年はラヴェルやラフマニノフを聴きに行きましたので、今年も楽しみにしています。
さて、そして最後に、クラシックのコンサートにおける諸注意を。
昔からのクラシックファンから、「のだめファンはマナーを知らなくて困る」という声が出ているのは事実ですし、私も実際に、のだめファンの起こしたトラブルを目撃したことがあります。「これだから素人は」と言われないためには、以下の3点だけ注意していただければ大丈夫です。楽しくかつ誰にも迷惑を掛けずに、みんなでコンサートを楽しみましょう。
◆ラフすぎる服装は避ける
→ドレスコードのあるコンサート以外はジーンズでも構いませんが、スニーカーやサンダルは避けましょう。
→元々コンサートは社交場でもありましたので、基本は「人の家にお呼ばれした時」を想定したファッションで。
◆演奏中に音を立てない
→おしゃべりもおせんべいもダメです。もちろん携帯電話の電源はoffに。
◆すぐ拍手しない
→余韻を楽しみましょう。拍手は周りから聞こえてきてから。
→ドラマのマネして「ブラボー!」とやるのも、初心者は避けた方が無難です。
途中の休憩時間は、そのオケや指揮者のCDを買うのもひとつの楽しみです。また、同行者とバーでグラスを傾けるのも、プチセレブ気分に浸れます(笑)
以上、参考にしていただければ、あなたも立派な“クラシックファン”です。
では、充実したクラシックライフを楽しんでください!
(桑畑幸博)
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