HOMEへ戻るMCCマガジン映画『オール・ザ・キングスメン(All The King’s Men)』

映画『オール・ザ・キングスメン(All The King’s Men)』

2008年03月11日

先日2008年・第80回アカデミー賞が発表されました。受賞作品の上映を楽しみにされている方、作品賞は毎年欠かさずに観ているという方、多くいらっしゃるのではないでしょうか。今日はアカデミー賞にちなんで、「オール・ザ・キングスメン」をご紹介します。
皆さんがタイトルをご存じだとするとそれは、ショーン・ペン、ジュード・ロウ、アンソニー・ホプキンスというアカデミー賞俳優陣による2007年上映作品ではないでしょうか。
それでは、この映画が

  • 実話に基づく物語で、原作はピューリッツァー賞に輝いていること。
  • 1949年にも映画化されており、その作品はアカデミー賞 作品賞・主演男優賞・助演女優賞を受賞していること。しかし当時、衝撃的な内容ゆえに日本では上映が許可されなかったこと。

皆さんはご存じでしょうか。


ロバート・ペン・ウォーレン著の 「オール・ザ・キングスメン(邦題:すべて王の臣)」は、1946年に発表され、翌1947年、ピューリッツァー賞小説部門(※)を受賞しました。
実在する政治家、ルイジアナ州元知事 ヒューイ・ロングをモデルとした、主人公ウィリー・スタークの人生が、ジャーナリストでウィリーの参謀であった、ジャック・バーデンの視点で描かれた物語です。
ロングは、貧しい一訪問販売員から高い志を掲げて身を起こし、1928年にルイジアナ州知事となり、その後、上院議員やルーズベルト大統領の支援者として活躍、さらには自ら大統領となる計画までした政治家です。世界恐慌下に苦しむ貧しい人々のために、タイトルのモチーフともなったキャンペーン「Every Man a King(誰もが王)」を掲げ、所得再分配制度を実現し、大衆から厚く支持されました。しかし半面、富裕層や大企業の敵も多く、汚職やスキャンダルで批判され、強いリーダーシップは“独裁者”と呼ばれることもありました。そして1935年、志半ばにして、州議会議事堂で知人に射殺され最期を遂げます。
小説「オール・ザ・キングスメン」は、ロバート・ロッセン製作・監督・脚本で映画化され、1949年の第22回アカデミー賞で、3部門(作品賞、ウィリー役のブロデリック・クロフォードが主演男優賞、ウィリーの秘書役を演じたマーセデス・マッケンブリッジが助演女優賞)を受賞しました。
腐敗した政治を暴露する内容で、しかも実話に基づくこの作品は、当時、小説・映画ともに、大変衝撃であったことは間違いありません。その内容ゆえに、戦後占領軍の指揮下にあった当時の日本では、上映が許可されなかったといいます。上映が実現したのは実に27年後といいますから、アカデミー賞受賞作が制作国とほぼ同時に観られる今からは驚く時間です。
約50年を経て、小説は再度映画化されました。物語は、ショーン・ペン演じるウィリー・スタークが、州知事に立候補し、当選して活躍した後、汚職で弾劾決議にかけられるまでの5年間が、ジュード・ロウ演じるジャック・バーデンの回想によって、語られています。
映画のひとつの見所は、ウィリーの演説です。
知事選に立候補するウィリーは、はじめ、対立候補の票割り工作に利用されただけの存在でしたが、その事実こそ庶民が馬鹿にされている、虐げられている証拠だと目覚め、立ち上がります。
「誰も田舎者を助けない。自ら目覚めるしかない。」「君たちから道路や橋や学校や食べ物を奪う者は一人残らず叩き潰せ。私にハンマーをくれたら、私が叩き潰す。」 
ウィリーは、自身の貧しい生い立ちを語り、労働者や農民の視点に立った演説を繰り返し、ついには大衆の支持を得て、知事に当選します。人を動かすリーダーは、言葉からイメージを描かせ、目標を共感させる力を持っている、と言われますが、ウィリーの演説は、まさにその具体例であり、大変見ごたえのある場面です。
知事となったウィリー。彼の理想と確固たる信念は、知事という地位と権力をもって次々と実現されます。しかし一方で彼は、お金でこそ、人々が動き物事が実現できる現実も思い知らされるのです。ウィリーは、彼自身が最も嫌っていたはずの賄賂に手を染め、目的達成のためには手段を厭わない、傲慢な政治家へと変わっていきます。ジャックもまた、ウィリーと彼の理想実現化のために、大切な人々を深く傷つけ失っていきます。正義の名のもとに、多くの犠牲が払われ、美しかったはずのものは醜く豹変してしまう。後半で綴られる人間模様は映画のもう一つの見所でしょう。
果たしてウィリーは、権力を握ったことで自分は誰もがひれ伏す“王”であると思い込み、堕落してしまったのでしょうか。ジャックは王の家臣の一人、オール・ザ・キングスメンに成り下がってしまったのでしょうか。それとも誰もが、権力の家臣なのでしょうか。
そうかもしれません。社会においては、権力やお金とは誰もが逆らうことの難しい、ダイナミズムとも言える力を持っているのは事実でしょう。ウィリーやジャックも、その力にただ圧倒され巻き込まれていったのかもしれません。
しかしだからといってそれが、彼らが信念や正義すべてを諦めてしまったことにはならないと、私は信じたいのです。もちろん、善と信じる目的のためであっても、人を欺き、法を犯し、略奪することは決して許されることではありません。ただ時に私たちは、理想を実現するために、理想ではない方法をとらざるを得ないことが、あるのではないでしょうか。「知事は“悪”でも、病院は“善”だ。」とは、ジャックが友人に言う、強く印象に残っている台詞です。ウィリーやジャックは、善と悪をわかっていながらも選択すること、志を失わないからこそ選択したことがあったのではないでしょうか。
さいごに、タイトル「オール・ザ・キングスメン」の由来に触れて終えたいと思います。
ロングのキャンペーン「Every Mas a King(誰もが王)」と、小説の邦題が表す「すべて王の臣」はご紹介しましたが、言葉の由来は、マザーグーズの詩「ハンプティ・ダンプティ」にあります。
卵男のハンプティ・ダンプティ。塀から落ちて、割れてしまい、王様の馬を集めても、王様の家臣(all the King’s men)を集めても、ハンプティ・ダンプティは元には戻せない。皆さんもきっとご存じのこの詩です。
一度壊れてしまった信頼、一度失った過去の幸せは、どんな力をもっても前の状態に戻すことはできないという、ウィリーとジャックの思いが作品に綴られているのではないでしょうか。
皆さんはどう思われますか。映画「オール・ザ・キングスメン」はお近くのレンタルショップでもきっと、新作・準新作、あるいはアカデミー賞受賞俳優出演作の棚に並べられています。皆さんも一度ご覧になってみませんか。
(湯川真理)

映画「オール・ザ・キングスメン」 2006年制作、2007年日本上映
監督:スティーヴン・ゼイリアン、原作:ロバート・ベン・ウォーレン
主演:ショーン・ペン、ジュード・ロウ
http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/allthekingsmen/
http://pt.afl.rakuten.co.jp/c/01272a43.86f206a3/?url=http://item.rakuten.co.jp/book/4449061/

映画「オール・ザ・キングスメン」 1949年制作
監督:ロバート・ロッセン、原作:ロバート・ベン・ウォーレン
主演:ブロデリック・クロフォード、ジョン・アイアランド
1949年第22回アカデミー賞 作品賞、主演男優賞、助演女優賞 受賞作品。
http://pt.afl.rakuten.co.jp/c/01272a43.86f206a3/?url=http://item.rakuten.co.jp/book/4214126/

小説「すべて王の臣(原題:All The King’s Men)」
ロバート・ペン・ウォーレン著、鈴木重吉翻訳、2007年(新装版)、白水社
1947年、ピューリッツァー賞小説部門 受賞作品。
http://pt.afl.rakuten.co.jp/c/01272a43.86f206a3/?url=http://item.rakuten.co.jp/book/4324325/

※ピューリッツァー賞小説部門は、1948年よりフィクション賞と名称が改められました。この小説・フィクション賞を受賞し、映画化された名作には、「老人と海」(アーネスト・ヘミングウェイ著、1953年受賞、1958年映画化)、「シッピング・ニュース」 (E・アニー・プルー著 、1994年受賞、2001年映画化)、「めぐりあう時間たち(The Hours)」(マイケル・カニンガム著、1999年受賞、主演のニコール・キッドマンが本作で第75回アカデミー賞主演女優賞を受賞)などがあります。

メールマガジン「てらこや」で更新情報をキャッチ!

「てらこや」は、「学び」を改めて見直すきっかけとなるようなさまざまな情報の提供を目的に発行している無料メールマガジンです。慶應義塾の社会人教育機関である慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)が毎月発行しています(原則第2火曜日)。