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『リサとガスパールのローラーブレード』

2009年03月10日

著:アン・グットマン(文)/ゲオルク・ハレンスレーベン(絵) ; 訳:石津ちひろ ; 出版社:ブロンズ新社 ; 発行年月:2001年1月 ; ISBN:9784893092120; 本体価格:1,260円 (税込)
書籍詳細

ある日曜日、散歩中に立ち寄ったカフェでふと、壁に立てかけられていた絵本が目に入り、懐かしさから手に取りました。「リサとガスパールのローラーブレード」。
リサとガスパールは、犬のようなウサギのような、耳のぴんと立った動物で、白色の毛に赤いマフラーを巻いたリサ、黒色の毛に青いマフラーのガスパール。フランスのパリで人間たちと一緒に生活しています。
可愛い絵本と昼下がりの珈琲にほっと一息。のはずが、読み終えてみると、ストーリーにびっくりし、納得のいかないことと疑問が残って、もやもやとした複雑な気分でした。
その後のこの2週間。なぜか絵本のことが何度も思い出され、ガスパールのことが気になってなりません。絵本に対して持っていた疑問は、私自身に向けられた問いかけへと変わり、はっと気づかされました。自分は何と、固定された観念で物事を見ていたのだろう。大人の社会の“理屈”で、凝り固まってしまっていたのだろう。と。


『リサとガスパールのローラーブレード』は、リサの誕生日に始まります。ガスパールは、一週間早生まれのリサが、自分よりいつも早く祝ってもらうのが、うらやましくてなりません。
リサは、たくさんのプレゼントをもらって大喜び。さらにその中にはなんと、ガスパールが欲しくて仕方のなかった、ローラーブレードがあるではありませんか。先にもらってしまうなんて、“ズルイ。”
ガスパールはつい、リサのローラーブレードを隠してしまいます。
「しんぞうはドキドキ ゆびはブルブル」
大きな部屋に一人、見開きページの隅っこに小さく描かれたガスパールの姿が、彼の気持ちをよく表しています。
ローラーブレードがなくなって、リサは大泣き。それを見てガスパールは、「やばい!どうしよう。」
ベッドの下に隠れます。でもみんなは、リサをなぐさめてばかりで、「ぼくのことなんて ちっともきづかない」のでした。
そして翌週。今度は待ちに待ったガスパールの番です。誕生日プレゼントにローラーブレードをもらって、ガスパールは大喜び。さっそくローラーブレードを履いて街中を走ります。
「だけど ちょっぴりつまらない。あんなこと しなけりゃよかった・・・」
最初は一人でもへっちゃらと意気込んでいたガスパールも、後悔し始めます。そして思いついて、リサにローラーブレードをそっと返すことにしたのでした。リサとガスパールは2人仲良くローラーブレードで街を走ります。
「やっぱり リサといっしょのほうが ずーっとたのしい!」
素直な子供らしい言葉で絵本は終わります。ここでほっとする読者も多いことでしょう。でもその時私は、「こんなストーリーでいいの?これを子供が読んでいいの?」と納得がいきませんでした。
だって。
ガスパールは、リサに「ごめんなさい」と、ちゃんと謝っていないんですもの。
ガスパールはいけないことをしたのに、大人に見つからず、叱られずに済んだんですもの。
それから数日、絵本のことが気になり、この時の自分の気持ちを、不思議と何度も思い返しました。再び絵本を手にし読み返すと、今度は次々と、以前とは違った感情が出てきて、そしてこう思いました。
ガスパールは、言葉で謝る以上の、「ごめんなさい」を表現している。自分の間違いを認め、反省の気持ちを行動で示している。
それに対して、私はどうだろうか?
そんなガスパールをどうして私は許せなかったのだろうか?
ローラーブレードをつい隠してしまったのは子供心。でもそれは、私たち大人たちが、ついうっかり無神経な一言で人を傷つけてしまったり、正しくないこととわかっていながらつい行動してしまうことに、よく似ています。
では、その後の行動はどうでしょうか。ガスパールのように、ローラーブレードを返せているでしょうか。もしや自分の気持ちをごまかして、そのままローラーブレードごと忘れようとはしていないでしょうか。
私には思い当たりました。相手に悪いことをしてしまったと気づきながらも、きっかけは相手だったとか、自分だって傷ついたのだからとか、あれこれ並べているうちに何となく時間と距離ができてしまい、返し忘れたローラーブレードが。私は自分が恥ずかしくなりました。
ローラーブレードを返すことが、時にとても難しくても、できないことではないはず。反省し後悔しているのだったら素直にローラーブレードを返す勇気を持ちたいと思いました。
では私はなぜガスパールを許せなかったのでしょう。
小さな子供は本当と本当ではないことの区別がつかず、ついウソや間違いをすることがあるものです。それをただ正論で叱り、正すことだけが教育かといえば違うはず。実際、パパやママたちは、もしかしたらガスパールの仕業であることや、ガスパールが罪悪感と後悔の気持ちでいっぱいなことを見通していたかもしれません。少しガスパールのことを待っていてあげたのかもしれません。
もしガスパールが、自分で間違いに気づきとても反省していたら、また、その気持ちが伝わってきたとしたら、それで十分ではないでしょうか。私たち大人の社会においても、そんなガスパールを許してあげてもよいのではないでしょうか。
私は許すことはもちろん、待ってあげるさえできなかったのでした。ガスパールは謝るべきだと、正論をかざしていました。正しいことはきちんと表立って正すことこそ、正義だと思い込んでいて、仕事でも、人との関係でも、ずっとそうあったように思います。本当は、自分の気が済まなかっただけなのかもしれません。
絵本の裏扉には、ローラーブレードで走るリサとガスパールが描かれています。物語のさいごの絵とは違って、2人ともヘルメットをかぶっていて、どこかスピード感があります。きっと2人は、ローラーブレードが上達したのでしょう。そして、ガスパールはリサに、「あのときは ごめんね」と謝ることができたに違いありません。これからもまた大切なことを気づかせてくれたリサとガスパールに絵本で会いたいと思います。
(湯川真理)

リサとガスパールのローラーブレード』(ブロンズ新社 )

rieta nero(リエッタ・ネロ)
絵本に出会った外苑前にあるドッグカフェです。犬を連れて、食事やお茶が楽しめます。可愛らしい犬たちの様子も楽しいもの。お近くにいらしたら、立ち寄ってみてください。
(店内のインテリアには犬のグッズやぬいぐるみ。きっとカフェの方は、リサとガスパールを犬だと思っていたのでは。)

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