今月の1冊
2010年08月10日
『ゼミナール 経営学入門』
読まない一冊はいかがですか?
「読まない一冊はいかがですか?」
このように書くと、ちょっと誤解なさるでしょうか。しかし、それには深いワケがあるので、しばらくおつき合いください。
若いマネジャーとコンサルタントのために
人間は、自分には理解できない、わからない出来事に直面すると、2つの行動パターンのどちらかを選択します。第一に、自らの能力と努力によって抜本的な解決を目指し、試行錯誤をはじめます。第二に、そのときだけの安易な解決を目指し、「とりあえず」的な行動をはじめます。もし、最近、「とりあえず」とか「まぁ、いいか」という言葉を使うことが多くなったとすれば、後者の行動パターンに陥っている可能性があります。
その背景には、ビジネス環境そのものが高度に複雑化し、解を得ることが容易ではなくなったこと、変化のスピードが速く、学習と実践を常に繰り返さなければ、キャッチアップできなくなっていることが挙げられます。そのため、「とりあえず」的な行動に陥り、仕事はこなしているものの、達成感や成長を実感できなくなっている人は多いものです。
『ゼミナール 経営学入門』は、東京理科大学総合科学技術経営研究科教授、一橋大学名誉教授の伊丹敬之先生、神戸大学大学院経営学研究科教授の加護野忠男先生という、日本を代表する経営学者がお書きになった骨太の本です。ついては、この骨太の本を、最近、「とりあえず」的な行動に陥っている若いマネジャーとコンサルタントに特にお勧めします。
原点回帰
ビジネス環境が厳しくなると、あちらこちらの企業から「原点回帰」という言葉が聞こえてきます。自社の経営の原点に立ち戻り、今、何をして、何をすべきではないのかを見つめ直すことの大切さを意味しています。経営の原点にあるのは、創業の精神です。創業者が何を想い願い、起業に至ったのか、いわば各企業固有の哲学、信念、信条といったものです。この経営の原点に立ち戻ることが、迷いを払しょくし、新たな時代の扉を開くために欠かせないわけです。
『ゼミナール 経営学入門』は単なる入門書ではありません。もしかしたら、入門ではなく原点(原論)といったほうが良いかもしれません。また、いわゆるハウツー本でもありません。むしろ、哲学です。伊丹先生、加護野先生の経営に対する信念、信条がふんだんに盛り込まれています。入門書だからといって軽い気持ちで読み始めるとやけどをします。ハウツー本だと思って購入すると、書棚の端っこでホコリをかぶることになります。
守破離
いまや、書店に行けば最新の経営書を容易に買うことができます。若いマネジャーやコンサルタントが、こうした書籍を通じて最新の経営管理論に興味を持つことは望ましいことです。新しい理論に触れることで、探求心が更に高まるからです。しかし、最新の経営管理論を構築した研究者たちは、伝統的な経営管理論を学び、その効果と限界を踏まえて新たな理論を構築した人々です。守破離という言葉があるように、若いマネジャーやコンサルタントも彼ら研究者と同じプロセスを経るべきではないでしょうか。伝統的な経営管理論を知らずに最新の経営管理論を学ぶのは、土台(基礎)をつくらずに家を建てるようなものです。早晩、つぶれてしまいます。
『ゼミナール 経営学入門』は最新の経営管理論を集大成した本ではありません。だからといって、考え方が古いわけでもありません。普遍の経営管理原論を扱っているからです。もちろん、版を重ねるごとに、新たな一頁が加わっています。それは新しい時代の要請に応える一頁ですが、流行りに左右されるような一頁ではありません。これが初版から20年以上たっても売れ続けている理由なのでしょう。
型破り
最新の経営管理論は研究室の中で生まれているのではなく、経営の現場の中から生まれています。優れた経営者やマネジャーは独自のマネジメント論を持っているものであり、それが研究者の研究対象となり、実証されたものが最新の経営管理論として紹介されるわけです。もし、あなたが優れたマネジャーやコンサルタントを目指そうとしているのであれば、人のモノの見方や考え方の模倣ではなく、独自の理論を構築しなければなりません。しかし、独自の理論を構築するためには伝統的な型を知ることからはじめなければなりません。型を知ることは堅苦しいことではあります。しかし、型を知ることができなければ型を破ることもできないのです。『ゼミナール 経営学入門』は、この経営管理の型を学ぶことができる数少ない本です。
ふたたび「読まない1冊はいかがですか?」
この本をご紹介する私自身、最初から最後まで通読したことはありません。しかし、この本は私にとって20年間、常にバイブルであり、大切な一冊であることは間違いありません。この本は、ひとつのことについて深く書いている本です。そのため、その深さを理解するために時間がかかります。だから、通読することが難しいのです。
むしろ、この本は「調べる本」だと思っています。若いマネジャーであれば、自分がやっているマネジメントに限界を感じることがあるでしょう。この本は、それがなぜなのかを調べるときに役立ちます。また、若いコンサルタントであれば、新たな問題解決策をクライアントに提示できずに、ワンパターンに陥ることがあるはずです。
そのようなときは、方法論に走らず、その目的を定義することからはじめなければなりません。クライアントに提供する問題解決策の目的は何なのか。この本は、その目的が何たるかを調べるときに役立ちます。きっと、新たな創造のエネルギーが沸いてくることでしょう。その創造のエネルギーが「とりあえず」的な行動パターンを変えてくれるはずです。
(安藤浩之)
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