HOMEへ戻るMCCマガジン“これも自分と認めざるをえない”展

“これも自分と認めざるをえない”展

2010年09月14日

今回紹介したいのは、現在、六本木ミッドタウンの21_21 Design Sight で開催している“これも自分と認めざるを得ない”展です。
展覧会のテーマは、“属性”です。
表現研究者であり、今回の展覧会ディレクターである佐藤雅彦氏はHP上で「属性に無頓着な自分、それに執着する社会。」と記し、『属性』というキーワードと作品を通して、これからの自分と社会を見つめ直して欲しいと言っています。作品は日常あまり使われず、意識することの少ない「属性」をキーワードに展開しており、1つ1つの展示に奥深い意図や新しい発見があるのですが、細かく紹介すると、実際に参加された際の感動が薄れてしまいますし、さらには、体験する人によって受け取るものが違うと思いますので、ここでは、展示のさわり部分の紹介と私がこの展覧会を通して感じたことを中心に記載します。
 


『属性』

1.その本体が備えている固有の性質・特徴 (『大辞林』より)
身体的属性としては、身長・体重・皮膚や髪の色・血液型・性別・年齢・体躯・顔つき・声など、また、社会的属性には、名前を始めとして国籍・住所・職業・所属・地位・人間関係などが挙げられ、その他、癖や持ち物なども、属性に含まれる。

 
展覧会に入るとすぐに身長、体重などいくつかのデータを計測します。このデータは何に使われるのだろう?と高まる期待を胸に進むと、中には、属性に関する様々な展示があり、自分自身の属性データを作品に認証させながら、作品を鑑賞するという新しい感覚の体験展示に魅せられていきます。

あなたより、あなたのことを知っている社会

誰もが耳にしたことのある指紋認証。指紋は個人を特定できる属性の1つですが、当の本人は自分の指紋を見ても自分のモノだとはわかりません。たいていの人は人体の特徴の中で自分の声すらも客観的に捉えることが出来ないのが現実です。
1つ目の展示“指紋の池”では、自分の指紋がどのように認証されるのか、また数多くある指紋の中で自分では判別できない自らの指紋を第三者から特定されることの不思議、さらには見つけ出された自分の指紋に対して、今まで感じたことのない愛着さえも感じることができます。
個人を認証する技術は、他にも静脈認証や虹彩認証など様々なものがあり、従来、判別が不可能だった身体的属性をも正確に取得することを可能にしています。そのことは、証明書などが無くとも、手軽に自分を証明できるという便利さをもたらすのと合わせて、自らでさえ判別できない属性を活用しているが故に、どこかで悪用されていてもわからない、また、間違った登録、認証をされてもわからないという、これまでの創造を超えた危険性をもたらしています。まさしく、ディレクター佐藤氏の言う“あなたより、あなたのことを知っている社会”の到来を展示体験から実感させられるのです。

属性のもう一つの意味から浮かび上がる感情

今回の展覧会でディレクターの佐藤氏が関心を寄せる属性の意味がもう一つあります。

『属性』

2.それを否定すれば事物の存在そのものも否定されてしまうような性質(『大辞林』より)

この意味について、考えたとき、1つの出来事を思い出しました。
昨年夏に行われた世界陸上ベルリン大会 女子800メートルで優勝した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手に関する出来事です。男性的な体つきから“男ではないか?”との疑いをかけられ、一時メダル剥奪を危惧されていたのですが、結局、後日の医学的検査の結果、先天的に男性と女性の生殖器を持つ両性具有であることが分かり、金メダルの剥奪は免れたというショッキングな出来事でした。
自分が小さい頃から信じていた女性という属性を否定された瞬間、彼女はどのように感じたでしょうか。せっかく勝ち取った金メダリストという自分の存在が否定されてしまっただけでなく、これまで積み重ねてきた自らの陸上生活をも否定され、さらには自分の存在自体も否定されたと感じたのではないでしょうか。

属性に執着する社会

あなたは男性ですか、女性ですか。
この一見、単純に思える属性も、認証技術の精度や読み込みの状況、髪型や体調の善し悪し等に影響され、時に間違った認識をされてしまう危険があります。さらに、どんなに精度の高い認証技術であったとしても、認証される側の人が白黒分けられない医学的特徴を有している場合もあります。
このことは、今後ますます属性を活用し、執着しようとする社会に対して、大きな危機感を感じざるをえません。

属性に無頓着な自分

さらに興味深いのは、属性を否定される事に危機感を持っていながらも、人は自分の属性や自分の存在に対して、意外に無頓着なことです。今回の展示では、新しい認証技術の紹介やそこに含まれる危険性を伝える展示だけでなく、そのような不思議な体験をさせてくれる展示があります。
集団の中にいる自分、個である自分、自分が思う自分と、属性というキーワードを通して、これまで気を留めてこなかった自分や自分を取り巻く世界を改めて見直す機会を得られます。私自身、この展覧会をきっかけに自分の癖やこれまで起きた事件や社会現象など様々な事を見直してみましたが、思考の幅が広がり、とても新鮮に感じることができました。
この展覧会を実際に体験し、最新の認証技術に触れたり、上記で記した新しい感覚を体験したりすると共に、皆さんにも属性というキーワードを元に身近なことを見直し、新たな発見に繋げるきっかけにしていただきたいと思っています。
(鈴木ユリ)
※展覧会は2010年11月3日(水)まで21_21 Design Sightにて開催しています。詳しくは下記の展覧会紹介ページをご参照ください。
※尚、本文では展覧会紹介ページより一部引用させていただいております。
http://www.2121designsight.jp/program/id/index.html

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