夕学レポート
2003年11月11日
榊原 英資 「これからの分権国家論~地方からのチャレンジ~」
榊原英資 慶應義塾大学教授、元大蔵省財務官 >>講師紹介
木村良樹 和歌山県知事 >>講師紹介
講演日時:2003年4月8日(火) PM6:30-PM8:30
『夕学五十講』2003年度前期の最初の講義は、元大蔵省財務官として著名な榊原英資氏と、改革派の一人として知られる和歌山県知事、木村良樹氏との対談形式で行われました。
「地方分権」をメインテーマに、直球勝負の豪快な発言が印象的な榊原氏と、関西人らしい、変化球を交えた話を展開される木村氏との間の議論は、受講された方々の注意を引き付けて離さない、そんな内容だったと思います。
冒頭、榊原氏は、「地方分権」の本質は、これまで言われてきた国の権限を地方に委譲するといったことではなく、日本という国の形を変えること、つまり、政治、経済、社会システムを根本的に変えることだという、明快な主張から話を切り出されました。
明治維新以来、日本では、東京にあらゆる機能が集まる一極集中型になりました。このように一都市に極端に集中している国は、他にはあまりありません。例えば、ニューヨークには金融関連の企業の本社は多いのですが、他の業界の企業では、あちこちの都市に本社が分散しているのに対し、日本の場合、ほとんどの大企業が東京に本社を置いています。なぜこのような状況になったかというと、日本が近代化・産業化を進める上で、一種の革命都市である「東京」が、海外の知識や文化をまとめて導入し、地方に伝播させる役割を果たしたからだそうです。したがって、人材の面においても、地方の優秀な人が東京に吸収され、そのまま大企業か官庁に勤めるという、地方から東京への一方的な流れが続いていました。こうして、あらゆる機能を集約した東京と、村落共同体をある程度残した地方という、ある意味異常な二重構造を生み出したのです。
では、なぜこのような現在のシステムを大きく変える必要があるのか。それは、もはや近代化・産業化のプロセスは終了した段階にあるからです。これからは新しい21世紀型のシステムが必要です。それは、地方分権を進め、連邦制、つまりネットワーク型のシステムに変えることだそうです。そして、地方分権を進めるためには、まず、国からの補助金に依存している現状を改め、地方に税源を委譲することが必要です。
こうすれば、国は、外交と軍事に専念した江戸幕府のように、補助金の分配以外に、国が本来やるべき仕事にエネルギーを集中でき、一方、地方は、江戸時代の藩と同様に、一般行政を自立的に行うことができます。ただ、このような国の形へと変えるためには、まず永田町/霞ヶ関を変える必要がありますが、これはなかなか難しいため、民間主導・地方主導で改革を進めるべきである、というのが榊原氏の考えです。
木村氏の地方分権についての基本的な考え方も、榊原氏と通じるものがありました。
木村氏は、21世紀には、国家というものは大きく後ろに引いて、地域がネットワークを組んでやっていくような時代だと想像していたそうです。しかし、冷戦時代よりも国際紛争が多発しているような世界情勢の中、国はもっとしっかりしなければならない。つまり、防衛や外交、高齢化への対応といった、国がやるべき仕事に集中すべきである。したがって、人の生活は地方公共団体が責任を持って受け持つという、そんな分権国家であるべきだと考えているそうです。
和歌山県の場合も、県の歳入5800億円のうち、地方交付税と補助金が3000億円を占めています。これだと、受益者負担がはっきりしないし、甘えが生じてしまう部分があるそうですが、これからは、それぞれの地方の特色を活かして、独立してやっていけるようになりたい。ただ、現在の1都1道2府43県の制度では、単位が小さすぎて難しい。そこで「州」程度の規模で大きく括って、独立性を持たせることが望ましいということでした。
ところで、榊原、木村両氏とも嘆かれていたのが、地方がどこもかしこもリトル東京化して、それぞれの地方が持っていた特色が失われつつあることです。日本におけるコンクリートの一人当たり使用量は、米国の約10倍だそうですが、そのくらい全国が、一律の公共工事でコンクリート化されている現実があります。また、木村知事も、昔ながらの木造建築が減り、どこもサッシを使うような画一的な家ばかりになっていることを指摘し、木造は腐るから値打ちがある、そんな考え方のパラダイムシフトが必要でないかと問題提起されていました。
成熟社会となった今、何事につけ、中央が一律に仕切る時代ではありません。
財源的に独立できるだけの規模があり、それぞれ特徴のある都市を持てるような地域単位で括りなおす。そして、福祉を始めとする一般行政を地方が自立的に行っていけるように日本を変えることは、いわば革命に等しいことだそうですが、今こそ革命を行う時期であるというのが、榊原、木村両氏に共通した意見でしょう。
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