KEIO MCC

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夕学レポート

2003年12月09日

安藤 忠雄 「夢を探す」

安藤忠雄 建築家 >>講師紹介
講演日時:2003年11月13日(木) PM6:30-PM8:30

11月13日は安藤忠雄先生の講演でした。
講演開始直前に会場に出かけていくと、デスクは取り払われてイスだけを並べられた会場には、もう人がいっぱいに座っていました。司会の方から、満員になってからもたくさんの申込みがあり、お断りにするのが大変だったとの話があり、受講券を確保できた幸運を感謝しました。


講演ではご自身のご経験を通じて、時代を生き抜くために自分の夢を持とう、というメッセージをお話くださいました。
世界はすごいスピードで変わっているのに、日本人はなかなか変わらない。豊かで、ある意味ノーテンキだと先生はいいます。しかし、その豊かさは本当に“豊か”なのだろうか、との疑問も投げかけられました。自分でものを考えることを放棄して、人と同じことを求めるのが本当の幸せに通じているとは思えない。自分の仕事を通して社会に何ができるのか、どういう人生をおくりたいのか、人生の軸を自分で決めることが必要だ。
先生は、建築を通して社会に貢献してきました。貢献と同時に、それが自分自身の楽しみでもあるということが、先生の建築に対する自由な発想からよくわかります。
20代のころ、大阪駅前の建物の屋上を緑化することや、高層階に文化施設を作る案を大阪市に提案しましたが、当時はかなり斬新だったため、採用されませんでした。
また、大阪の中之島プロジェクトでは、中之島公会堂という約1世紀もの歴史を持つ建物の価値を重視し、取り壊すのではなく、新しい機能を追加して全体を活かそうと考えられました。そこで、建物の中に卵型をしたホールを入れて新しい空間を作ることを提案したこともあるそうです。しかしこれも反対者がいたために実現しませんでした。
行政へ提案をし続けてきた先生の感想として、全員が賛成しないと動かないというのは無責任であり、反対者がいても、それを説得して事を成すことに意味があるのだという厳しい言葉がありました。実際、今になって、大阪市の担当者は先生の提案を実行していればよかったといっているそうです。
さらに、今は全国から来訪者が訪れている淡路島の本福寺。ここに水御堂を作ったのですが、このお寺のお堂は蓮の池の下にあります。蓮池の中に作られた階段を降りると地下にお堂があるのです。これまで水の上に建てられたお堂はありますが、水の下にあるお堂は前例がないということで、最初は檀家の代表が反対したそうです。しかし、説得や相談を重ね、全員賛成となりました。現在の盛況ぶりは拝観料をとっているほどです。
またあるときは、7坪弱の土地に2700万円の予算で、画廊とアトリエと大きい洋バス付きの家を建てたいという注文がありました。夢と現実のギャップがおもしろいから引き受けられたそうです。壁面を画廊として使うため、家の中の階段として梯子段を採用しました。また、大きいお風呂という夢は近所の銭湯で我慢してもらったそうです。一見実現不可能な依頼でしたが、夢や希望を持つことは個人の勝手であり、本気で取り組めば、何とか実現する方法がみつかるものだということが、先生の経験から伝わってきます。
先生のお人柄について、先生は人を肩書きや地位で区別していない方だということを、お話や写真を通じて感じました。錚々たる方々とのお付き合いもありながら、子どもたちと並んで植樹している姿がまったく違和感がなく自然なのです。東大大学院を卒業した弟子がいなかの若い大工さんに議論で言い負かされている様子をおもしろくお話してくれましたが、双方に愛情をもって接している様子が髣髴としてきました。
最後に、産廃の不法投棄や土砂の採掘などでむき出しになった瀬戸内海の島々に緑を取り戻そうと始めた「瀬戸内オリーブ基金」の活動を紹介されました。衣料品店のユニクロで募金箱を目にした方も多いのではないでしょうか。瀬戸内海の直島を丸ごとミュージアムにしてしまおうというプロジェクトは現在進行形です。また、淡路島の夢舞台は、カナダのブッチャード公園に倣い、木を育てながら公園にしていくプランです。最初はむき出しであった土地が、3年経ち、5年経ち、小鳥や小動物も集う森で覆われてきました。
さらに、阪神大震災で犠牲になった方々を鎮魂するために30万本の植樹をしました。震災後に目にした白い木蓮が先生の心と響きあったことがきっかけとなっています。
日本人は新しいことに挑戦しないから、このままでは、日本が沈んでしまうと危惧なさっています。挑戦することと安全との両立を、全力で考えることが必要だといいます。個人がおもしろくならなければ、日本という社会もよくならない。人と同じであることを夢とせず、自分なりの夢や幸せを追求するための自信と責任を持とう。一度や二度断られてもあきらめるな。
自らの生き方そのものを通して、先生は多くのメッセージを私たちに伝えてくださいました。自分で考えること、自分自身の夢を持つこと、簡単にあきらめないこと。エネルギーがわいてきた講演でした。

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