夕学レポート
2024年07月02日
鈴木おさむ氏講演「120%の力を、次のステージへ」
私は1972年生まれで鈴木さんと同い年。
さらに、鈴木さんの盟友・木村拓哉さんが中学時代の剣道部の仲間だったこともあり、勝手に親近感を覚えている。
そんな私が「放送作家」という職業を知ったのは、鈴木おさむさんがきっかけだ。
いつの頃からか、バラエティ番組のエンディングに流れるテロップに鈴木さんの名前が「必ず」といって良いくらいの頻度でクレジットされるようになった。あまりにたびたび見かけるので、「同姓同名の放送作家が何人かいるのではないか」と疑ったくらいだ。
ちなみに放送作家とは、Wikipediaによると「番組の内容を企画し、全体の流れを組み立て(構成)、筋書きにしていく専門の仕事」と説明されている。もちろん番組によって求められる役割はさまざまなのだろうが、何も無いところから企画を生み出す「0→1」と、その企画に肉付けして魅力を最大化する「1→100」の両方ができる人でないと務まらない仕事なのだろうと想像する。
裏方でありながら多くの人に顔を知られる売れっ子作家である鈴木さんが2024年3月に作家業からの引退を発表したときはとても驚いたし、これまでのキャリアを手放した後の仕事にどんな心持ちで向き合っていくつもりなのか興味があったので、今回の講演をとても楽しみにしていた。
すでに報じられているとおり、今後はスタートアップ企業の支援に取り組まれるとのこと。分かるような、分からないような転身だ。
放送作家は誰にでもできる仕事ではない。「もったいない」と考えてしまうのは私が凡人だからだろうか?
子供時代に磨かれた才能
当日の講演は、鈴木さんが小学生の頃から現在までをふり返る形で進んでいった。
同じ時代を共有する者としては、タイムスリップしたような楽しさがある。
思いおこせば小学生のころ、土曜の夜8時に「全員集合」を観るべきか「ひょうきん族」を観るべきか、真剣に悩んだのは私だけではないはずだ。
中学時代は「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」をチェックしておかないとクラスの話題についていけなかったし、高1のときにはじまった『夢で逢えたら』は「なんてオシャレなコント番組だろう!」と夢中になった。
今でこそ「テレビはオワコン」などと揶揄されることもあるが、かつてテレビの中の世界は間違いなくキラキラ輝いていた。アニメも歌番組もワクワクしたけど、80年初頭から90年代半ばくらいまで、バラエティが特に光を放っていたように記憶している。
鈴木さんもやはりテレビが、そしてバラエティ番組が大好きだったそうだ。でも凡人の私と違うのは、ただ観ているだけでなく自分でも「書いていた」ということ。
小学生のとき、生徒会長である鈴木さんは「生徒会でお芝居を上演しよう」と企画し、みずから大映ドラマ風の脚本を書いた。このお芝居は生徒たちに大いに受けたそうだ。中学1年生のときにはクラスメイトを題材にした創作文が新聞に掲載されたこともあり、こうした経験を通して「書く」ことへの自信が少しずつ積み重なっていったという。
中学2年生の担任の先生との日誌を通じた漫才のようなやりとりも、鈴木少年に「書く歓び」を強く刻みつける出来事になった。多感な時期にもかかわらず、卒業まで毎日先生への日誌を書き続けたというのだから相当な熱量だ。
これらのエピソードを聴いて、生徒会の活動や作文の授業、日誌の提出などに鈴木さんが積極的に取り組んでいたのはちょっと意外だった。
森三中の大島美幸さんとの結婚にいたるエピソードなどから、子供時代から自由奔放で学校活動の枠からはみ出すような人生を送ってきたのだろうと思い込んでいたので。しかし少年時代の鈴木さんは(少なくとも表向きには)「良い子」だったのだ。
と同時にあらためて感じたのは、子供時代の小さな成功体験や、周りの大人の対応はその後の人生にかくも大きな影響を与えるのだ、ということ。
鈴木さんに生徒会長の立候補をうながしたイシカワ先生、創作文の主人公ケンゴくん、中2のときのヒゲの濃い担任の先生、誰が欠けてもその後の鈴木さんは存在しなかったのかもしれない。
ときに、天才は作られる。鈴木さんの話しぶりにも、出会った人たちへの愛情と感謝があふれていた。
期待に120%で応える
19歳で作家デビューした後は、現在の鈴木おさむ像につながるエピソードが満載だった。
- 人生の大ピンチを迎えたときに、相談した先輩から「その話おもしろいなあ」と感嘆されたことで「自分にとっては深刻な事態も“付加価値”になり得るのかも」と気づいた話
- 「できるわけがない」とタカをくくっていた他人の企画が大成功を収めて、心の中で深く反省した話
- たとえ馬鹿にされたとしても、自分がやりたい仕事を口に出すことで実現する可能性があると知った話
などなどなど。
目の前で熱く語る鈴木さんのいかにも「業界人」といった佇まいや、タダモノではない目の輝きは画面を通して見るのと同じだったが、子供時代からの続きで話を聴いていると意外と“真面目”で、耳の痛い意見にもきちんと耳を傾ける誠実な人柄が伝わってきた。そして何より、周りの人へのリスペクトと「ありがとう」の気持ちが端々に散りばめられた話しぶりに気持ちが温かくなった。
私が今回の講演に求めていたのは
- 50代にしてジョブチェンジするにあたっての不安や期待
- どんな成功を描いているのか
といった、今後の仕事についての具体的なお話だった。
だから講演冒頭で「僕のこれまでの経験をお話しします」と切り出されたときには、「思ってたのと違うなあ」と少しガッカリしたのだが、鈴木さんのエネルギーにあふれた講演にグイグイと引き込まれて開始10分後には自分の勝手な要望などどうでも良くなってしまった。
「これでもか」というほどさまざまなエピソードを(何度も汗をぬぐいながら)繰り出す鈴木おさむショーは規定時間の90分ではおさまりきらず、それでいて会場を全く飽きさせることなく終了した。
「まずは目の前のスタッフに気に入られる企画を出さなくては何も始まらない」という放送作家の習性なのかもしれないが、どんなシーンにも全力で挑むこのスタイルは新しい仕事にもそのまま引き継がれていくのだろう。
そう考えると、本講演のタイトル「120%の力を、次のステージへ」で伝えたかったのは「これまで同様、周囲に感謝しながら全力で面白いことを追求していくだけだよ」というメッセージなのかもしれない。
すでに大成功を手にした同い年が、純粋な気持ちを忘れずに新たなステージで走り出していこうとしている事実。これだけでも十分にパワーをもらうことができた。私もがんばろう!
(千貫りこ)
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鈴木おさむ(すずき・おさむ)
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- スタートアップファクトリー 代表
19歳の時に放送作家になり、それから32年間、様々なコンテンツを生み出す。
現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業の若者たちの応援を始める。コンサル、講演なども行う。
鈴木おさむ 公式HP OSAMUSUZUKI.COM
X(旧Twitter):鈴木おさむ
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