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夕学レポート

2005年07月12日

鴻上 尚史 「自己演出のすすめ~あなたの魅力を演出するヒント~」

鴻上尚史 劇作家・演出家 >>講師紹介
講演日時:2005年6月7日(火) PM6:30-PM8:30

赤いTシャツに黒のジャケット、赤に白のラインの入ったウォーキングシューズで『夕学五十講』に登場した鴻上尚史氏。これまでの『夕学五十講』の講師陣とは明らかに違うオーラを放っていました!さすがに演劇人として成功した方です。テンポの良い楽しいトークにグッと引き込まれ、あっという間に2時間が過ぎていました。


講演のメインテーマは「表現力」でした。鴻上氏は、知識を使いこなせるという意味で「教養」という言葉を使うけれども、この言葉は、体、声、感情、ことばに対しても使えるそうです。例えば、「体の教養が高い人」、「声の教養がある人」、「感情の教養がない人」といった言い方ができるのです。鴻上氏は、こうした教養の高さを表現力の高さと考えているようです。
まず、鴻上氏は「ことば」の教養について説明してくれました。その基本となる考え方は、ロシアの有名な演劇人、スタニフラフスキーの言った、演技における「第1の輪」「第2の輪」「第3の輪」という状況の区別です。
それぞれの意味は、

  • 第1の輪というのは、自分だけにスポットライトが当っている状態
  • 第2の輪は、あなたとわたしという二人にスポットライトが当っている状態
  • 第3の輪は、目に入るもの全部にスポットライトが当っている状態

です。
そして、鴻上氏によれば、それぞれの輪に対応する「ことば」があります。

  • 第1の輪に対応する言葉は、「ひとりごと」
  • 第2の輪に対応するのは、「あなたに対して話しかけること」
  • 第3の輪に対応するのが、「みんなと話すこと」

もし、それぞれの輪と対応する言葉がずれていたらどうなるか。鴻上氏は、ファーストフードに行くとお尻がムズムズする感じになるそうですが、上記の考え方にあてはめるとその理由がわかってきたそうです。ファーストフードでの店員とのやりとりは、状況としては、第2の輪(あなたとわたし)です。しかし、店員のマニュアル化された言葉は、第1の輪に対応する壮大な「ひとりごと」なのです。つまり、状況と言葉がずれているために、どうも違和感を感じてしまう、ということです。
ただ、逆に、特定の状況においても、意識的に様々な言葉を自由に使いわけることができれば、会話を魅力的にすることができるそうです。結婚式のスピーチで、「本日はおめでとうございます・・・」と、みんなに向かって話す言葉に終始するのではなく、友人の新郎、あるいは新婦に向かって直接話しかけたり、「本当に良かったなあ・・・」とひとりごとのように語ることで、スピーチが面白くなる。鴻上氏は、このように、状況と言葉の3つのレベルを自由に渡り歩ける人のことをことばに教養がある人と呼びます。重要なことは、自分の発する言葉が、どの状況におけるどのレベルの言葉であるかを認識できることだそうです。それが認識できれば、上手に使い分けができるようになるのです。
次に、鴻上氏は「声の教養」へと話を展開します。よく、「良い声」という言い方をしますが、どのような状況にも通用する「良い声」というのはありません。むしろ、感情やイメージをちゃんと表現できる声が「良い声」だそうです。さて、声の教養を高めるためには、まず、声を出す仕組みを理解する必要があります。声は「声帯」を使って出すわけですが、人の体には、ギターのボディのように共鳴させるところが次の5箇所あります。

  1. くちびる
  2. のど

人は、上記の5箇所をうまく共鳴させることで様々な声を出せるのです。鴻上氏によれば、通常、人は特定の箇所しか共鳴させないで声を出しています。しかし、声を出す際にどこを共鳴させているのかを自分で認識し、練習して意識的に使えるようになれば、多様な声が出せるようになります。
また、表現豊かな声を出すためには、声の要素を理解しておくことも必要です。次の5つがあるそうです。

  1. 大きさ
  2. 高さ
  3. はやさ
  4. 音色・音質

これらの要素をそれぞれ変えることによって、声の響き方が変わるのですが、通常、人は2-3種類しか使っていないそうです。鴻上氏は、これらの要素を組みあわせた声がどんなものになるのか、受講生も巻き込んで実演してくれました。
さて、鴻上氏は、従来、感情が豊かであれば表現が豊かになると言われてきたけれども、逆もあるだろうと考えています。つまり、表現を強引にでも豊かにすれば、感情も豊かになるという逆方向の作用です。出したことのない声を出すことによって、感情が刺激され、今までに経験したことのない感情が出てくるのです。このように、感情と表現は密接に関連しあっているので、まず自分の出したことのない声を出してみることが表現力を磨くレッスンにつながるのだそうです。
鴻上氏のお話は、内容もさることながら、まさに「言葉」、「声」、また、今回は時間の制約のため説明されなかった「体」の教養を存分に駆使されており、レポートの文章ではとても伝えられない面白さがありました。鴻上氏は、全国で学生、社会人などさまざまな方を対象に表現力のワークショップを開催されているそうなので、参加されてはいかがでしょうか?鴻上氏の表現力の豊かさが実感できると思います。

主要図書
あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』講談社、2003年
名セリフ!』文藝春秋、2004年
真実の言葉はいつも短い』光文社(知恵の森文庫)、2004年
ハルシオン・デイズ』白水社、2004年
鴻上尚史のごあいさつ』角川書店、2004年

推薦サイト
http://www.thirdstage.com (サードステージ)

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