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夕学レポート

2026年05月22日

池上 彰氏講演「世界が直面する課題2026」

池上 彰
ジャーナリスト
講演日:2026年5月19日(火)

世の人は池上彰さんに何を求めているのか。日々ニュースが報じられる。個々の事象では理解できないような難しいニュースに遭遇した時、あるいは選挙開票の時、人々はつい思ってしまう。「池上さんの解説を待ちましょう」。もはや「広辞苑でわからない言葉を引く」と同程度の意味を持っているかもしれぬ。解説を求める理由は単に知りたいから、ビジネスに活用するからと様々だ。

今回池上さんは貿易と宗教の観点から、主にアメリカとイランを取り上げて世界情勢の読み解きをしてくれた。トランプ大統領の株取り引きと情報操作の問題、最近話題となったクシュナー氏の問題、選挙区割りの問題等々。イランについては革命防衛隊とイラン革命から核濃縮までの経緯を日本との関係に絡めて、宗教の箇所ではイランのイスラム・シーア派とアメリカのキリスト教福音派について、そして最後に貿易の観点からイランと中国およびロシアとの関係の詳しい解説があった。
ただ解説するだけではなく情勢に応じた池上さん独自の切り口と展開の仕方があるわけで、そこが視聴者および読者にヒットしているのだろう。そうはいってももっと踏み込んで欲しい点もある。

例えばイランの一般庶民の考え方などがそれである。イランは日本でも知られているように親日の国だ。その理由として出光の日章丸による石油買い付け、ドラマ「おしん」がイランで大ヒットした影響、80年代に大量のイラン人労働者が来日したことなどが挙げられた。これらは確かにその通りで、現在のイラン政府内の意思決定者世代にとっては該当するかもしれない。けれども若者世代にとって影響力のあるソフトパワーの国は今や韓国かもしれない。SNSにペルシャ語で投稿されるドラマクリップは韓国ドラマであって、日本製ドラマのクリップを取り上げたペルシャ語投稿を(少なくとも私は)インスタグラムで見たことがない。アルゴリズムの関係もあるだろうし、探せばきっとあるのかもしれない。けれども15年ほど前に隣国トルコの列車内で流れていたビデオクリップは既にKポップだった。2019年の段階でもイランで再放送されて大人気らしいが「おしん」が最初に放送されたのは40年近く前なのだ。こうした点を踏まえるとこの点はもう少し丁寧に取り上げた方が良いかもしれない。

同時に「出光は特別だ」と話した革命防衛隊の元司令官の意図がどこにあったのかも探って欲しく思う。額面通り受け取って良いのか。日章丸の買い付けがイランの親日度合いに多大な貢献をしたのは事実だとしても、やはり昔の出来事のような気がしないでもない。(日章丸の石油買い付けは73年前。)今それを日本の記者へアピールする、そこに外交その他のどのような意図やメッセージが込められているのか、いないのか。ぜひそこを池上さんにこそ分析して欲しいと思うのは欲張りだろうか。

また世俗的なものの考え方が今のイランの政治・社会にどう反映されているのかも知りたい。今回は宗教の観点の紹介だから省略されたのかもしれない。宗教が政治や人々のものの考え方に深いところで影響を与えるのは間違いないとはいえ、現代の若者や現役世代がどのように宗教と関わり、あるいは距離を取っているのかも言及されると、イランを理解するより大きな手掛かりになっただろう。どうしても遠い国で核問題などもあり、イランは「宗教イデオロギー色の強い、ちょっとおかしな国」のイメージを持たれ易くなりかねない。「おかしな国」に対して世の人はどうも冷たい見方をしがちだから。

講演の最後に日本の特異性を挙げて「日本にこそ果たせる役割があるのではないかと思う」と締めくくられた。変わりゆく日本とイランの関係の中で何ができるのか。日本こそ、と言われた「資産」を私たちは活かせるのか。官民それぞれに何ができるのか。それこそ正に知りたい点だったので講演が終わってしまい残念に思った。

池上さんの解説はわかりやすくて面白い。でもだからこそというか、私達がいつまでもそれに甘んじて良いようにも思えない。テレビで顔を、書店で本を拝見する度に反省することしきりである。頼り切っているというか受け身な自分を感じてしまうから。それでは世界情勢と自分との間にいつまでも距離があるままだと。もし会場にいたであろう商社や石油元売り各社等に勤務する聴衆から(単なる質疑応答ではなくて)各自の現状認識や積極的な意見交換を聴けたらどうだろう。そうした相互交流があることでより広く深い理解ができるはず。慶應MCC事務局の皆様、池上さんを講師とした新規講座はいかがでしょうか?ぜひご検討ください。

(太田美行)


池上 彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト

池上 彰

1950年生まれ(長野県松本市出身)、慶應義塾大学経済学部卒業。
1973年NHK入局。社会部記者やニュースキャスターを歴任。1994年から退職する2005年まで『週刊こどもニュース』の初代「お父さん」役として編集長兼キャスターを担当する。在職中から執筆活動を始め、現在は大学、出版、放送など各メディアにおいてフリーランスの立場で活動する。鋭い取材力に基づいたわかりやすい解説に定評がある。
2016年には、『池上彰の参院選ライブ』が高く評価され、第64回菊池寛賞を受賞。名城大学教授、東京科学大学特命教授、東京大学客員教授、福島大学客員教授、立教大学客員教授、愛知学院大学特命教授。

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