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星野 佳路 「リゾート再生」

2005年09月13日

星野佳路 株式会社星野リゾート 代表取締役社長 >>講師紹介
講演日時:2005年6月15日(水) PM6:30-PM8:30

「アルファリゾート・トマム」などの破綻した大規模リゾート施設の運営を請け負う企業として、「株式会社星野リゾート」がマスコミに取り上げられることが多くなってきました。「リゾート運営の達人」を掲げて同社を引っ張る、今話題の経営者、星野佳路氏が今回の『夕学五十講』の講師です。カジュアルな服装で登場され、温和な雰囲気が漂う星野社長ですが、お話された同社の経営手法は、極めてロジカルで明快、しかも着実に成果を出しています。星野氏の頭脳の明晰さに圧倒された講演でした。


「星野リゾート」は1904年に軽井沢に誕生し、軽井沢の発展とともに歩んできた企業です。星野氏が社長に就任したのは1991年。87年に施行されたリゾート法に基づいた大規模リゾートが全国各地に建設されており、既存のリゾート地は大丈夫だろうかという大きな危機感の中、31歳で同社の経営を引き継ぎました。
さて、星野リゾートは「リゾート運営の達人」をビジョンとして掲げています。星野氏によれば、リゾート法に基づくリゾート開発に大規模資本が乗り出す中、リゾートの「所有」「開発」「運営」という3つの領域のうち、同社が強みを活かせる「運営」に特化して、そこで価値を生み出していくことを基本戦略としたのだそうです。実際、これまで同社が軽井沢で展開してきた「ホテルブレストンコート」は、年間を通じての稼働率が75%と高い水準にあります。また、「軽井沢高原教会」では、ブライダルビジネス市場が減少するという予想を踏まえて、ウエディングの組数を限定し、単価を2.5倍に引き上げることに成功しています。このように、自社運営の施設は90年代を通じて好調な業績を収め、運営の達人としての自信を深めることができたのです。
同社ではまた、コンセプトを大事にしています。リゾートによって強み・弱みが異なるので、それぞれ適切なコンセプトを立てる必要があるそうです。たとえば、同社軽井沢のリゾート施設では、「Ecological Community~自然と文化を楽しむ人々が集まる場」をコンセプトに、「エコツーリズム」(自然環境などの資源を維持しつつ、自然や文化に対する理解を深める観光形態)や、施設内において廃棄物を出さない「ゼロエミッション」、軽井沢の別荘に定住する方を支援する「SOBO」に取り組んでいます。さらに、同社では、リゾート運営の手法を仕組み化しています。経営者個人の発想や行動力に依存するのではなく、どんなリゾートを任せてもらっても、星野リゾートの持つ経営手法を導入することで、一定の成功に導くことを目指しているのです。
この仕組みにおける主な狙いとしては、「経常利益率」と「顧客満足度」の両方を同時に高めていくことがあります。運営を依頼する施設オーナーと、施設を利用するお客さまの両方のニーズを充足させるために、この2つを経営指標として置いているのです。顧客満足度については、端的にはサービスレベルを数値化することです。リゾート業界では、顧客第一といいながら、毎月あがってくる数字は利益しかないことが多いそうです。星野氏は、顧客第一であるためには顧客満足度を測定すべきだと考えており、実際、同社では年4回顧客満足度調査を行い、社員にフィードバックしています。しかも、顧客満足度に基づき決算賞与で利益分配を行っています。このおかげで、顧客満足度をあげようと社員が自主的にさまざまなアイディアを出してくるそうです。
星野氏は、軽井沢の自社施設で成功を収めたノウハウを用いて、破綻したリゾートの再生に取り組み、すでに結果を出しつつあります。最初に運営を請け負った「リゾナーレ」(2001年民事再生申請、同年12月から星野リゾートの運営開始)は非常に立派な施設ですが、温泉がないため消費者の足切りの対象となっていたそうです。休暇における、温泉に対する消費者のニーズは7割にも達するほどだからです。
そこで、市場調査を踏まえて、新たに打ち出したコンセプトは「大人も楽しむファミリーリゾート」でした。家族で滞在しながらも、大人もリラックスしたいというニーズを満たすため、たとえば「GAOキッズプログラム」という子供を預かるサービスを開始して、大人だけの時間を持てるようにしました。またリラクセーションの一環として施設内に本屋を置いてほしいという声にもこたえました。このようなニーズは、ファミリー客にとっては温泉以上に重要なポイントだったのです。この結果、顧客満足度が向上しリピータが増加、2004年は前年度比130%の売上げを記録しました。星野氏によれば、当初の計画どおり3年目で黒字転換にすることができました。
2002年に民事再生法申請、2003年8月から星野リゾートが運営を開始した「磐梯リゾート」は、磐梯山のふもと、猪苗代湖が一望できる場所にある 900億円をかけた大規模スキーリゾートです。当リゾートの再生の基本戦略は、まずはスキー場としての競争力を強化しつつ、中期にわたっては、通年型リゾートを目指すこととしました。
星野氏によれば、当リゾートの新コンセプト立案にあたって市場調査を行った結果、日本のスキー経験者は他国と比較しても多いこと(未経験者は2割もいません)、しかし、現在スキーをやっていない休止者が54%を占めていること。休止の最も大きなきっかけは子供ができて物理的に行けなくなることがわかりました。そこで、ファミリー客を呼び戻すことを目的としたコンセプトを立案したのですが、その際、ファミリーには受け入れられていなかった、従来のスキー場の問題点やイメージ、たとえば寒い中でのリフト2時間待ち、まずいレストラン、学生向けの粗雑な宿泊施設の改善を行いました。
家族の場合、もはや、学生や独身時代のように一日中滑ることはなく、せいぜい1日3時間ほどしかゲレンデにいません。したがって、スキー以外の要素の向上が必要だったのです。たとえば、同スキー場のレストランでは「おいしさ保証付カレー」の提供を開始し、前年度比1.5倍、年間6万食の成果を収めました。当初、食べた後で、おいしくなかったと嘘をついて返金を求める客が多いのではないかと懸念したそうですが、実際返金をしたのはわずか6件でした。また、同リゾートでは、都心からのスキー客を誘致するにあたり、新潟のスキー場と比較すると知名度などが劣るため、スノーボーダーにターゲットを絞った展開をしているそうです。
その他、上達しなかった場合は料金を返却する「上達保証制度」の導入や、さまざまな施策を通じて、同リゾートの顧客満足度は向上しつつあり、昨年は雪不足のために目標を修正したものの、今年度の業績改善に大きな期待をかけています。
さらに、星野リゾートは、2004年4月から「アルファリゾート・トマム」の再生にも取り組んでいます。こちらは、新たなコンセプトと基本戦略に基づく具体施策を展開しはじめたばかりですが、すでに、再生への手ごたえを星野氏は感じているようです。
星野氏が実践してきた経営手法は、綿密な調査に基づくコンセプト立案、そして基本戦略から具体施策への展開という、実にロジカルなものですが、それが単なる理論に終わらず、実際の成果につながっていることに本当に驚きを覚えずにはいられません。経営にもやはり原理原則があるのだなと実感させられたお話でした。

推薦サイト
http://www.hoshinoresort.com/ (星野リゾート)
http://www.hoshinoya.com/ (星のや 軽井沢)

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