HOMEへ戻るMCCマガジン一條 和生 「グローバルリーダーシップ開発の現場から」

一條 和生 「グローバルリーダーシップ開発の現場から」

2006年10月10日

一條和生 一橋大学大学院社会学研究科教授、IMD教授 >>講師紹介
講演日時:2006年7月11日(火) PM6:30-PM8:30

今晩の『夕学五十講』は、今回で3回目のご登場となる一條和生氏でした。
一條氏が一橋大学と並行して教授を務める「IMD」は、スイス・ローザンヌにある‘International Institute of Manegement Development’の略称で、エグゼクティブ(経営者)教育に重点を置くビジネススクールです。一條氏が、この欧州随一の人気を誇るIMDでのエグゼクティブ教育に携わって気づいたことは、欧米のエグゼクティブたちはとても勉強熱心だということです。常に新しい知識を獲得し、自分の能力を継続的に磨き続けようとする点においては、日本のエグゼクティブとは比較にならないとのことでした。


こうしたエグゼクティブの学習ニーズに対応したプログラムが、「EMBA」(Executive MBA)だそうです。これは、エグゼクティブ向けに提供されるMBA(経営学修士)の学位が取得できるものです。IMDの場合は、4年をかけて、eラーニングによる学習を行いながら、5週間の集中プログラムを合計4回行うことで「EMBA」が取得可能なプログラムが用意されています。
IMDの「EMBA」を初めとする各種教育プログラムは欧米のリーダーたちの強い支持を受け、近年業績を大幅に拡大しているそうですが、その背景には、日本のエグゼクティブ教育とは決定的に異なる強みがあるそうです。そのキーワードは次の3つです。
・Real World Real Learning
・Global Meeting Place
・Lifelong Learning
「Real World Real Learning」は、単なる「理論」ではなく、実際の経営の現場で使える実践的な内容を学べるということです。欧米のエグゼクティブたちは、日本以上に「理論はわかった。しかし、その理論は私の課題解決にどう使えるのだ?」という点を問いかけてくるそうで、教える側の教授たちも常に研究を怠らず、また新しいケースを作成することが求められているそうです。
次の「Global Meeting Place」とは、IMDが、様々な国籍、言語、異なる文化的背景を持つ人物が集まり、議論する場になっていることです。これは、スイスが欧州の真ん中にある地理的特性も活かされているのですが、受講生の内訳を出身地で見ると、ヨーロッパ51%、アメリカ19%、アジア26%、オーストラリア・アフリカ 4%となっています。また、IMDには教授が全部で58人在籍しているそうですが、その国籍は19カ国を数え、学ぶ側、教える側とも実に多様な人材が揃い、英語を共通言語として共に学びあう機会が提供されています。
この環境が「強み」となる背景には、グローバリゼーションが進んだ現代では、多様な人々が、異なる立場・考え方からの意見のぶつけ合いを通じて「創造性」(クリエイティビティ)を生むことが、なにより必要になってきていることがあります。
一條氏は、ベストセラーの「フラット化された世界」(The World is Flat)の内容を例に引き、1492年~1800年までの「国」によるグローバリゼーション、1800~2000年までの「企業」によるグローバリゼーションを経て、2000年以降は、「個人」によるグローバリゼーションが進んでおり、根本的にビジネスが変りつつあることを指摘します。
たとえば、米国の確定申告業務をインドで行うことが可能になったように、インターネットの普及により、国境や時差を越えて業務が移管されるようになってきています。業務効率性を追求するなら、コストの安い海外の人にやってもらえばよい。こうして、米国ではホワイトカラーのレイオフが始まっています。
したがって、欧米の人材に求められるのは独創的なコンセプトを生み出す力であり、これは多様な視点の融合から生まれてくるものと認識されています。このため、「高い創造性を引き出すために、いかに多様性をうまく管理するか」(Managing Diversity for Creativity)がエグゼクティブたちの最大関心事となっているのです。「Global Meeting Place」であるIMDは、上記のようなスキルを身に付ける上で最高の環境を提供してくれていると言えるのでしょう。
そして最後の「Lifelong Learning」は、学び続けることを可能にする仕組みです。
IMDでは、すべての受講生が一生涯、毎週1回放送されるライブの学習番組をeラーニングで受講することができます。「IMD’s lerning network」と呼ばれるこのプログラムは、全社員が受講可能な会社単位でのメンバーも参加しており、その数は約180社に上るそうです。「IMD’s lerning network」を通じて、エグゼクティブやメンバー企業の社員は、最先端のトレンドに触れ、また学習者同士のネットワークを維持・強化することが可能となっています。
一條氏が関わっておられるIMDのプログラムのお話を通じて、グローバリゼーションの進むこれからの企業環境に求められるリーダーシップ教育の理想形がはっきりと見えてきたように思います。ただ、同時に、こうしたグローバルなリーダーシップ育成の面では明らかに遅れている日本企業が、優れた教育を受けてきたリーダーを擁する外国企業にはたして伍していけるのかどうか、一抹の不安を感じさせられた講演でもありました。

主要著書
“Enabling Knowledge Creation: How to Unlock the Mystery of Tacit Knowledge and Release the Power of Innovation”, Oxford University Press, 2000年(2000年度全米出版協会最優秀ビジネス書賞受賞、翻訳として、『ナレッジ・イネーブリング:知識創造企業への五つの実践』ゲオルク・フォン・クロー、一條和生、野中郁次郎共著、東洋経済新報社、2001年)
『ITとリーダー革命:変革の成功はリーダーで決まる』 PHPソフトウェアグループ、2000年
『バリュー経営:知のマネジメント』 東洋経済新報社、1998年

推薦図書
『ネクスト・マーケット』 C.K.プラハラード著、スカイライト コンサルティング訳、英治出版、2005年
『フラット化する世界(上・下)』 トーマス・フリードマン 著、伏見威蕃訳、日本経済新聞社、2006年

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