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内館 牧子 「学び直しのススメ」

2008年12月09日

内館牧子 脚本家 >>講師紹介
講演日時:2008年11月11日(火) PM6:30-PM8:30

内館氏は53歳の時、東北大学大学院の文学研究科修士課程に入学し、『土俵という聖域』を研究テーマに選び、宗教学を専攻されています。今回の講演では、東北大のキャンパスがある仙台に居を移し、3年間にわたって勉強に打ち込んだご自身の体験を元にお話を展開されました。
そもそも内館氏が大学院で学び直した目的は、ご自身が長年愛してきた「相撲」についての学術的知識を磐石にすることでした。その頃メディアでは、土俵に女性が上がれない、つまり「女人禁制」なのは女性に対する差別である、平等主義に反する、といった議論が起きていました。女性の官房長官や府知事が土俵に上がって、本場所で優勝した力士に対してトロフィーを渡すことを認めるべきかどうかで相撲協会が揺れた時期のことです。
以前より、内館氏は、「女人禁制」を擁護する立場を取っていました。


相撲が単なるスポーツではなく、長い伝統と歴史を持ち、「女人禁制」であることにも深い意味があり、昨今の「ものみなすべて平等」の名の下に伝統を否定してしまうと、「文化がやせてくる」と考えていたからです。ところが、女人禁制反対の立場を取る人々の中には、そもそも相撲自体を良く知らず、さらには理解しようともせず、むやみに反論してくる方もいたのです。そこで、内館氏は、きちんとした学問的知識をベースにして、「悪平等」から土俵を守りたいと思ったのだそうです。
さて、相撲を学問的に学ぶにあたり、内館氏は、相撲が持つ「神事」という側面に着目しました。そこで、宗教学を専攻し、神事の視点から相撲を研究することにしたのだそうです。当初、東京に所在する大学院への入学を考えていたそうですが、内館氏が学びたい内容に最も合致したのが東北大学でした。
当初、勝手な思い込みで、大学院なんて、週に1、 2回、仙台に新幹線で通う程度だろうと思っていたそうですが、現実はそう甘くありませんでした。講義は週5日ある上に、コンパ、花見、合宿、学園祭など何かと行事もたくさんありました。そこで、やむなく仙台に住むことに決め、仕事も、脚本は休筆。雑誌の連載や対談だけなど最小限にしぼり、勉強に専念することにしました。ただ、修士課程修了までに3年を要したのは(本来は2年)、修士論文を書き上げる時間が長引いただけでなく、仙台の歓楽街、国分町で飲み歩いたことにも原因があったそうです。このことは大学の先生方もよくご存知だとか。
内館氏は、ご自身の学び直しで「得たもの」として、次の三つを挙げてくれました。
一つ目は、もちろん、、相撲についての知識が当初の目的どおり磐石になったことです。
二つ目は、目線・視線が広がったことです。というのも、社会人として忙しく働く毎日の中では、決して知りえなかった知識や、全く違う考え方を学ぶ機会が大学ではたくさんありました。
例えば、内館氏は、青森・恐山の「イタコ」について、現地に調査にも行ったそうです。「イタコ」とは、死者の霊を呼び、自分に乗り移らせる能力を持つ巫女のことです。そのイタコによって、「今は亡き人(親・兄弟など)と話せた」と、人々が癒されて帰る姿を見て、その存在意義を考えるようなことは、宗教学を学ばなければ決して体験できなかったことです。
そして、三つ目は、新しい人間関係ができたことです。大学院で共に学んだ若い学生、あるいは同様の立場で学ぶ様々な年代の社会人学生、内館氏にとっては年下の方も多かった先生たち、また仙台で通ったお店のご主人など、それまで東京で働いていた頃とは全く異なる人間関係を育むことができたのだそうです。
一方、東北大での学び直しで失ったものは何もない、と内館氏は言い切ります。しいて言えば、入学してから卒業するまでの間、仕事を絞ったことによる収入の減少や、仙台と東京との二重生活でよけいな経費が出ていったことですが、得たものに比べたら取るに足らないことだそうです。
そして、内館氏は、自分自身の体験を踏まえて、社会人が学び直しに取り組むために必要な条件を4点示してくれました。
1.経済的やりくり
2.時間的やりくり
3.家族の理解
4.仕事の両立
どこで勉強するかによって学費は異なりますが、学び直しには相応のお金がかかります。ですから、経済的に学費が賄えることが第一の条件。次に、学問をする時間を確保できることが第二の条件です。もし、仕事が忙しくて勉強の時間が割けないようであれば、勉強に打ち込むのは難しいでしょう。第三の条件は家族の理解です。勉強のために家族とすごす時間も、家族の一員としての仕事も、どうしても制約されます。したがって、家族があなたの勉強を理解し、支援してくれなければ安心して勉強に打ち込めません。最後の条件は、第一、第二の条件とも関係しますが、仕事との両立ができることです。もし、今の会社・仕事でとても忙しくされているようであれば、それは学ぶこと以上に、まだその会社・仕事においてあなたが果たすべき役割があるということです。内館氏は、基本的に学び直しは“趣味”であり、周囲に過剰な負担をかけるべきではないと考えています。ですから上記の4つの条件が1つでも揃わないようであれば、学び直しの時期ではないということです。
内館氏は現在、母校の武蔵野美術大学などで、客員教授として教鞭を取られていますが、講義開始時間と同時に教室に鍵を掛けて遅刻者を入れない、課題も期限内に提出しなければ一切受け付けないなど、厳しい態度で学生に接しているそうです。なぜなら、自分が学び直してみて、つくづく自分が若い学生だった頃にちゃんと勉強しておけばよかったと痛感したからです。また、先生が講義のための準備にどれだけ時間をかけているかわかったからです。ですから、今の若い学生にも、せっかく大学にいるのだから、しっかり学んでほしいと願っているのだそうです。
最後に、質疑応答のなかで内館氏がお話しされた、相撲の神事についての興味深い話をご紹介して終わります。
国技館において初日の前日、朝9時から9時半にかけて神を降ろす神事をみることができるそうです。神事により神は7本の御幣に降り、土俵上に祭られるそうです。千秋楽においては、神を天にお戻しする神事が最後にあるとのこと。ご興味のある方は調べて出かけてみてはいかがでしょうか。

主要著書
おしゃれに。男』潮出版社、2006年
おしゃれに。女』潮出版社、2006年
女はなぜ土俵にあがれないのか』幻冬舎(幻冬舎新書)、2006年
養老院より大学院―学び直しのススメ』講談社、2006年(2007年・講談社文庫)

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