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坂本 光司 「日本でいちばん大切にしたい会社」

2010年09月14日

坂本 光司 法政大学大学院政策創造研究科 教授・同大学院静岡サテライトキャンパス長  >>講師紹介
講演日時:2010年6月1日(火) PM6:30-PM8:30

坂本氏の著作『日本でいちばん大切にしたい会社』は2008年発刊。当初はそれほど注目されませんでしたが、じわじわと販売数を伸ばし、今や 35万部を超える大ベストセラーとなりました。坂本氏が驚いたのは反響の大きさです。本書を読んだ読者からのメールや手紙が坂本氏の元に殺到したのです。そのうち半数が経営者から。残りは社員からが約3割、学生1割、主婦や高齢者の方々が1割といった内訳でした。
メールや手紙を寄せた経営者の多くが坂本氏に伝えてきたことは、「自分の会社がなぜうまく行かなかったかが、この本を読んで完璧に理解できた」という率直な心情でした。また、1 割ほどの経営者は感謝のメール・手紙を送ってきました。自分のやり方は、他者から「間違っている」と言われ続け、また業界でも異端児として仲間はずれにされ一匹狼的に経営してきたけれど、本書のおかげで、自分の経営スタイルが正しかったことを確信できた、ということを感謝の言葉とともに伝えてきたのです。


社員から送られてきたメールや手紙の内容は悲しいものでした。本書で紹介されていたすばらしい会社と比べて、自分の会社の厳しい現実とのギャップを嘆く内容が多かったそうです。学生からは、業種や企業規模、オフィスの場所などを基準にして就職先を選ぶのは間違っていたことに気づいたので、もう一度就職活動を振り出しに戻してやり直すと書いてきた人がいたそうです。主婦や高齢者の方からも、「近所の手前」といったメンツで子供の勤め先にこだわったり、ただ安いだけで商品を選ぶことのおろかさに気づいたといった内容が多かったそうです。
「企業経営は、‘5人’に対する使命と責任を果たすための活動のことを言う。」坂本氏は、企業経営の本質をこう定義しています。会社とはその「場所」のことを言い、その使命と責任は「5人の幸せを実現すること」です。シェア拡大や、業績向上といったことは結果としてついてくるものであり、これらを経営目的とすべきではないのです。企業の行いが正しいか、正しくないかは、5 人の幸福に資するかどうかで判断すべきものであって、幸福責任を果たせない企業は存在すべきでないと坂本氏は言い切ります。この主張は単なる観念論ではありません。坂本氏が大学の研究室を飛び出し、全国各地に足を運び、自分の目で確かめた6000社を超える企業の実態調査から導き出された結論です。企業トップは、業績の悪さをしばしば外部環境のせいにしますが、企業が業績を伸ばすのも悪化させるのもすべては企業の内部に原因があります。とりわけ、経営トップの「心と背中」が企業の盛衰を決めるのだそうです。
さて、企業経営が、その幸福を追求すべき‘5人’とはどんな人々でしょうか?
最優先にすべき1人目は「社員とその家族」です。坂本氏は、社員を大切にしていて経営がおかしくなった企業はひとつもないと断言します。生き生きと働ける企業であればこそ、社員は顧客に対して、感動を呼ぶような優れた商品・サービスを提供できるのです。一般の需要供給理論と真逆の、「有効供給(優れた商品・サービス)が有効需要を生み出す」というのが坂本氏の持論です。なお、社員には、パート、アルバイト、派遣社員など、非正規社員も含まれます。
2人目は「社外社員とその家族」です。社外社員とは仕入先や協力工場などのことです。彼らは「下請け」と呼ばれることもある弱い存在です。発注する側の企業はときに、自社の利益率を維持するために、下請け企業に強引な値引きを要求します。しかも、同時に、短納期、高品質など厳しい条件も求められることもしばしばです。それだけに、社外社員は、自社社員の次に大切にすべき存在だと坂本氏は考えています。
3人目は「顧客」です。世の中の多くの企業は、顧客第一主義を掲げていますが、坂本氏の考えでは、顧客は、社員、社外社員の次に大切にすべき人たちです。タテマエで顧客満足を追求したところで、ひどい扱いしか受けていない社員や社外社員が顧客に最高の商品やサービスを提供できるわけもなく、ひいては顧客満足も実現できないからです。
4人目は「地域住民」です。地域の弱者に、企業には手をさしのべる責務があり、見て見ぬふりをすることは許されないと坂本氏は強く主張します。
そして、5人目「株主・関係者」と続きます。ここにおいて興味深いのは、近年重視されてきた「株主・関係者」は、最後に幸せにすべき存在と位置づけられている点でしょう。
坂本氏は、究極のところ「社員を最も大切にする企業」こそが、長期にわたって繁栄を続ける企業なのだと主張します。本講演では、これを実証する具体企業をいくつか紹介してくれました。例えば、48 期連続増収増益というとんでもない記録を作った伊那食品工業。この会社の理念は「社員の幸せを通して社会に貢献すること」と、明確に社員重視の姿勢をうたっているのです。同社に訪れた坂本氏は、社員たちが生き生きと働き、同社に所属する喜びにあふれていることに大きな感動を覚えたそうです。
また、50年も前から障害者を積極的に採用してきた日本理化学工業。チョークを主力製品とする70人ほどの中小企業ですが、うち障害者は50人を超えており、障害者雇用比率は約7割になります。同社の障害者雇用は、養護学校の先生が、自分の生徒の採用を熱心に頼みにやってきたのが始まりです。そのころ専務だった大山社長は、採用はとても無理だと断りました。それなら、せめて1週間の職業体験だけでもと言われ、障害を持つ2人の女性を受け入れました。すると、1週間後、現場の社員たちが大山氏を取り囲み、熱心に働いたこの子たちをぜひ採用して欲しい、私たちが彼女たちを支援するからと詰め寄ったのだそうです。以来、障害者がうまく作業できるように、仕事のやり方を工夫して変えていくことによって、高品質の商品を安定的に供給し続けてきているのです。
坂本氏は、こうした社員を大切にする会社、また社会的弱者を大切にする会社、社会貢献、地域貢献に熱心な会社を「日本でいちばん大切にしたい会社」と位置づけて、その繁栄と存続のために、自ら製品を購入したり、NPO 法人を設立したり、また宣伝役を務めることで積極的に応援しています。今年(2010年)1月には、『日本でいちばん大切にしたい会社2』が発行され、こちらも順調に売れているそうです。これからも、優れた会社を発掘し、世の中にその存在を知らしめるため、坂本氏の命の続くかぎり、シリーズ化して出して行くとのこと。私たち一人ひとりも、こうした会社のために何かできることをしたいと強く感じた講演でした。

主要著書
ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社』ダイヤモンド社、2010年
日本でいちばん大切にしたい会社2』あさ出版、2010年
なぜこの会社はモチベーションが高いのか―働く皆が幸せな会社』商業界、2009年
ケーススタディ この商店街に学べ』(編著)、同友館、2009年
日本でいちばん大切にしたい会社』あさ出版、2008年

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