HOMEへ戻るMCCマガジン高田 朝子(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)

高田 朝子(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)

2021年06月08日

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

高田朝子(たかだ・あさこ)
  • 法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

ロスノフスキ家の娘』(上・下巻)
ジェフリー・アーチャー (著), 永井 淳 (翻訳)

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

大学1年生の夏休み。もともとジェフリー・アーチャーのファンだったので義務感にかられて買ったのですが、読み始めたら止まらなくなりました。その後、英語でも読みました。留学先にも持って行きました。何度も読み返し本がボロボロになりました。全部で日本語訳、英語版併せて8回ぐらい買い直していると思います。

3.どのような内容ですか?

ジェフリー・アーチャーの初期の作品で『ケインとアベル』の続編です。アベルの娘のフロレンティナがシカゴの裕福なポーランド移民二世として生まれ、求められる最も高い教育を受けながら成長し、その後父親の仇敵の息子と恋に落ち、結婚し、父親と絶縁して自らのアパレルビジネスを立ち上げ成功させ、紆余曲折を経て最終的にはアメリカ合衆国大統領になるまでを描いています。移民の娘の細腕繁盛記とも言うべき話です。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

この本は、「貧困に喘ぐ恵まれない女性が知恵と才覚で幸せを掴む」というような従来型の一代記では全くありません。大金持ちの移民の娘が金持ち故に米国で直面する複雑さや困難さ、移民であるが故の差別、そして人生で直面する様々な難苦を自分の意志で突き破っていく話です。
小説の中で表現される彼女は、チャーミングで実直でそして真義の人です。他人から受ける理不尽な態度や悪意に機知に富んだ言葉で反撃し、困難な状態をリフレーミングして前に進もうとします。彼女を突き動かしていたのは自分の信念であり、強い意志があるところに道は拓けることが全編を通じて表現されています。

この本と出会った当時の私は全く困難に立ち向かおうとしないぐうたら学生でした。時は女子大生の就職が「土砂降り」と言われた時期でした。心の片隅で何か手に職を付けないとまずいと思いながらもその日暮らしを満喫していました。大学時代は体育会に所属していましたのでその部分だけは一生懸命やっていましたが、無為無策の女子大生そのものでした。
この本を読んで感動しても、直ぐに生活や考え方が変わることはありませんでしたし、全く別世界の話で、自分ごととして捉えることは烏滸がましいと思っていました。しかしながら、いつかは、フロレンティナみたいな格好が良くて潔い人になりたいと密かに願ったものです。

一番、衝撃的だったのはフロレンティナが何一つあきらめないことでした。家庭の幸せと自分の仕事の成功と高い社会的地位の獲得の全てを、どれ一つ諦めようともしない。何の躊躇なく全てを手に入れようと突き進む。それが当然、という彼女の生き方に痺れました。「何かを得る為には何かを諦めなくてはいけない」という日本女性的な考え方は微塵もない。この姿勢はその後の私に強く影響を与えたと思います。

5.この本の次におすすめ

稀代のストーリーテラーによる純粋に面白い小説です。何かをこれから学ぶ、ではなくてアメリカという国の側面を観察する材料として良いかもしれません。この本を読んだ後、マイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』早川書房(2021)を読まれると、サンデルのいうレガシーと呼ばれる人々がどのような振る舞いをして、どのように社会階層が形成されているのか。アメリカ社会の持つ病理がより重層的に理解できるのではないかと思います。

ロスノフスキ家の娘
著:ジェフリー・アーチャー ; 翻訳:永井 淳 ; 出版社:新潮文庫; 発売年月:1983年2月;

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