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小林喜一郎(慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール教授)

2021年11月09日

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。

小林喜一郎(こばやし・きいちろう)
  • 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール教授
慶應MCC担当プログラム

1.私(先生)をつくった一冊をご紹介ください

イノベーションへの解』翔泳社
クレイトン・クリステンセン & マイケル・レイナー(著)
玉田俊平太(監修)、櫻井祐子(訳)
2003年12月

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

2003年にこの書籍に出会いました。それ以前にも1997年に原著英語版でクリステンセン教授の大ベストセラー『イノベーションのジレンマ』(日本語訳は2000年出版)、並びにハーバード・ビジネス・レビューのクリステンセン教授とジョー・バワー教授共著の初出論文「Bower, J. L., & Christensen, C. M. (1995). Disruptive technologies: Catching the wave.」[1]を読んでおり、破壊的技術(Disruptive Technology)概念の現実事象への説明力の高さには注目しておりました。あえてこのシリーズの第2弾書籍を選ばせていただきましたのは、その概念をさらに精緻化・発展させているからです。

3.どのような内容ですか?

前作の『イノベーションのジレンマ』では、クリステンセン教授の「なぜ今まで市場をリードしていた大企業が、成熟市場において敗れるのか?それはお客の言うことを聞いていなかったからではない。むしろ聞きすぎていたからである」という問題意識に衝撃を受けました。成熟化とはコモディティ化が進むことですが、その中でオーバースペックになりすぎるがゆえに売れなくなってしまう現象を、破壊的技術(Disruptive Technology)概念で説明されました。本書籍ではされにそれを「ローエンド型破壊」と「新市場型破壊」の2つに細分化され、さらにそれを防ぐための一つの方法論としてジョブ理論として有名になる「顧客の用事に着目した事業の定義」の必要性を説いており、ビジネスへの適応力のある実践的理論書として目から鱗が落ちる思いでした。

おそらくは教授のボストン・コンサルティング・グループにおける経験から、実務に適用できる理論でなければ意味が無いという信念に基づかれた研究成果ではないかと思います。本書籍はその後多くの研究者や実務家に影響を与え、私自身も日本語版で解説を担当したゴビンダラジャン&トリンブル著の『リバース・イノベーション』の、新興国のローエンド市場参入戦略にもつながっています。さらにはタッシュマン教授とオライリー教授の書籍『両利きの経営』での組織論にも発展していったと思います。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

私が11年間の実務を経てビジネススクールの世界に入ったのが40歳の年でしたが、その後の教育・研究対象としてイノベーションに興味を持ったのも、これら一連の著作のお蔭でした。以後、「なぜリーダー企業が敗れるのか?」「環境変化に企業が適応できないのは何故か?」「イノベーションを達成できる企業とできない企業の差は何か?」といった問題意識のもと、イノベーション事象や理論の研究を重ね、教育に携わってまいりました。クリステンセン教授が作られた「ヒューレット・パッカード:キティ―ホーク」[2]のケースは破壊的イノベーションを考えるケースとして今でも使っています。

また私が研究生としてハーバード・ビジネス・スクールに居りました90年代後半、TOM(Technology and Operations Management)という部門で研究生活をしていたのですが、その時にクリステンセン教授は様々な疑問にも丁寧に答えてくださり、非常に包容力のある教授であったことを懐かしく思い出します(教授は2020年逝去)。驚いたのは突然日本語でお話しされたこと、また韓国語もお上手だそうで、何でも出来る人だなあとすごく感心しました。私がナレッジの移転方法について議論するために作成したハーバード・ビジネス・スクールの共著ケースを、クリステンセン教授の監修された書籍[3]に事例としてそっくりそのまま入れていただいたことも、大変感謝しております。

まさに私がイノベーション事象に興味を持ち、その分野での研究と教育の道を切り開いてくれたのがこれら一連のクリステンセン教授のイノベーション関連書籍であったと思っています。

5.この本をおすすめするとしたら?

本書籍は私のビジネススクールの「競争戦略論」という科目の中の1参考書籍として、今でも使っております。また大企業、特に製造業にお邪魔すると、「新興国でうまく売れない」とか「技術的に優れたモノ・良いモノを作っても市場に受け入れられない」という声をよくお聞きします。そのような時には、イノベーションというのは技術的なブレークスルーを指すのみではなく、このようにローエンドから這い上がって従来のビジネスモデルを破壊するようなイノベーションも大切であるという教訓として、この概念を説明に使います。もちろんこの書籍は非常に有名なため、企業の殆どの方は実はご存じなのですが、頭で分かっても実行できないケースが多く見られます。その場合にも製品ブランドや組織や評価方法を変える、など多くの現実的示唆のある対処法を教授は仰っておられます。新興国への進出、オーバースペック課題への対処、ビジネスモデル・イノベーションの具体的方法として、いまだに有効な理論であると考えています。

 

  1. Bower, J. L., and C. M. Christensen. “Disruptive Technologies: Catching the Wave.” Harvard Business Review 73, no. 1 (January–February 1995): pp. 43–53.
  2. “Hewlett-Packard: The Flight of the Kittyhawk (A)(B),” Clayton M. Christensen, Harvard Business School Publishing, Rev.2006.
  3. Robert Burgelman, Clayton Christensen, and Steven Wheelwright, Strategic Management of Technology and Innovation, International Edition, McGraw Hill, 2003, pp.732-744.
    邦訳:ロバート・A・バーゲルマン/スティーヴン・C・ウィールライト/クレイトン・クリステンセン編著『技術とイノベーションの戦略的マネジメント』(上)(下)巻、翔泳社、2008年、下巻 pp.86-97。
イノベーションへの解
著:クレイトン・クリステンセン & マイケル・レイナー ; 出版社:翔泳社; 2003年12月

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