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ピックアップレポート

2012年02月14日

高橋 俊介『プロフェッショナルの働き方』

高橋俊介
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

「なんのために働いているのか」
「なぜ、いまの仕事をしているのか」

 これらの問いに、あなたは明確に答えられますか。
 そんなことを考えたこともない。
 働くことになんて意味があるの?
 こういう人は要注意です。

 戦後の貧しい時代は、働くのは食べていくことと同義だったし、高度成長期には、学校を卒業したら会社に入って、そこで定年まで勤めることが社会の常識だったので、働くことの意味を問う必要はありませんでした。

 しかし、現在は違います。もはや終身雇用も年功序列も機能しているとはいい難く、突然の企業破綻(はたん)や事業撤退などが、誰にとっても無縁ではなくなりました。かつては毎日まじめに会社に行っていれば、十年、二十年先の人生まで容易に見通せたのに、いまは一年後に世の中がどうなっているかすら、誰も正確に言い当てることはできない。

 そんな時代だからこそ、働く意味を考えることが大事なのです。それがないと毎日どんなに一生懸命働いても、先の見えない不安から逃れられず、やがて働くこと自体がどんどんつらくなります。

 それにしてもこの国では、いったいどれくらいの人が、働くということの意味を自覚しているのでしょう。
 その実態を正確に調査するために、私は自らが座長となって、2010年1月に慶應義塾大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(代表 花田光世氏)と、リクルートワークス研究所双方の協力のもとに「21世紀のキャリアを考える研究会」を立ち上げ、東日本大震災をはさんで十八ヵ月に及ぶ調査を行いました。

 具体的にいうと、日本を代表する大企業や外資系企業十三社にご協力いただいて、合計七千人近いビジネスパーソンを対象としたアンケート調査と、同じく約百五十人の個別キャリアインタビューを実施。さらに、それらの結果を、二十代から五十代まで世代別に分析しました。

 私が最も驚いたのは、四十代の人たちの意識です。この世代というのは働き盛りであるにもかかわらず、自分が何のために働いているのかということをきちんと考えている人の割合が、他の世代に比べ明らかに低い。
 四十代というのは従来の日本企業でいえば、管理職の肩書が与えられる年代です。一方で、現在の四十代というのは、日本経済がバブル景気にわいていた真っ最中に入社しているためボリュームが大きく、どの会社でも過剰感が強いという特徴があります。

 山一証券が破綻した1990年代後半を思い出してください。景気の低迷にともない業績が悪化した企業は、それまで聖域と思われてきた正社員の雇用に手をつけ始めます。そのときにリストラの対象となったのが、年功制で働きに比べ給与負担の比重が大きい五十代の、いわゆる団塊以上の世代の人たちでした。

 同じことが数年後に、いまの四十代に起こる可能性は決して小さくありません。
 幹部に昇格できるのはほんのひとにぎりです。専門職に就いている人も、その実体は会社が便宜的につくった専門職制度であって、本当に特殊な技能をもった真の専門職となると、ほとんどの人は該当しないでしょう。

 管理職にもなれない、専門職としてもつぶしがきかない、それでもあと二十年は働かなければならないとしたら、いったいどうすればいいのでしょうか。それには、顧客や会社に対し価値を生み出し、なおかつイキイキとした日々が送れる働き方を考え、準備しておくしかないはずです。
 それなのに、そういう自覚をもたず、仕事観も確立していない四十代が多いという事実には、空恐ろしさすら感じざるを得ません。

 この四十代に対し、仕事やキャリアについて実によく考えているのが二十代の若者です。こういう仕事がしたい、こういうキャリアをつくりたいという明確な意思をもった人の割合は、他の年代に比べ二十代が群を抜いています。プロフェッショナル志向が強いのも、この世代の特徴です。
 この背景に、彼らを取り巻く厳しい就職環境があることは想像に難くありません。
 自分は何をやりたいのかとか、何のプロとして一生食べていくのかとか、そういうことを就職活動を通して問われ続けた結果、入社前から仕事観やキャリア観がある程度できあがっているのです。

 ただし、これにも問題があります。学生のうちから内省を繰り返し、「自分のやりたいことはこれ」と仕事や人生の目標を決め、面接でもそんな自分の思いを目を輝かせながら語る「内省過剰キャリア派」というのは、入社後に、自分の考えるキャリア形成と直接結びつかないような仕事を与えられると、「これは私のやりたいことではない」「こんなことをやっていても時間の無駄だ」と感じ、途端にやる気を失ってしまいがちなのです。

 また、食いっぱぐれる心配がなく、休みは十分あって、ワークライフバランスも実現できる職種でなければ嫌だというような「功利的キャリア派」というタイプも二十代にはしばしばみられます。でもそんな仕事はまずありませんから、いくらキャリア観が確立しているといっても中身がそれでは、社会に出て厳しい現実を突きつけられ、途方に暮れるのは避けられないでしょう。同じように、資格をひとつ取って一生それで食べていこうと考えている人も一緒です。

 だいたい、職業経験もない状態で、自分の本当のやりたいことなどわかるはずがありません。それに、キャリアというのは目標を定め、そこから逆算して最短距離を行こうと思っても、決してうまくいくものではないのです。
 キャリア研究の世界的権威であるスタンフォード大学のクランボルツ教授の提唱する「計画的偶然性理論」によれば、キャリアの八割は予想外の偶発的な出来事によって決定されるとのこと。つまり、現代のような変化の激しい時代においては、想定外のことがかなりの確率で起こるので、事前の計画どおりものごとが進まないほうが、むしろ自然なのです。
 そう考えると、大事なのは目標を立てて効率的にそこに向かうことではなく、偶然のチャンスを引き寄せる日ごろの働き方や、偶然性を高める人間関係の構築に投資することのほうだといえます。

 同時に、現代社会では誰もが、好む好まないにかかわらず、人生のかなりの部分を仕事に費やさざるを得ないのですから、長期にわたって充実感と働きに見合う収入を確保しながら、第一線で働くというイメージを持ち続けることも忘れてはならないのです。それは、プロフェッショナルとしての働き方を模索し続けることだと言い換えてもいいかもしれません。

 従来、人材開発といえば、企業の人事部に所属する人たちの仕事でした。ところが、最近はプロフェッショナルとしてその種の仕事を手掛けるキャリアアドバイザーなどの人たちが、目立って増えてきています。彼らの高い専門性や、顧客意識をもった主体的な働き方は、サラリーマンのそれとは似て非となるものです。
 私が昨春から沖縄で手掛けている「人材開発プロフェッショナル養成講座」(那覇シティーキャンパス推進実行委員会主宰)にも、こういう人たちが数多く参加しています。彼らはこの分野で生涯プロフェッショナルとしてやっていくんだという気持ちが強いので、講座に取り組む姿勢もとりわけ真剣です。
 
 想定外の変化が当たり前の二十一世紀的仕事環境・経済環境において、長い間第一線に立ち、価値を提供し続けるにはどうしたらいいのか。そのひとつの答えが、プロフェッショナルという働き方です。
 プロフェッショナルというと、これまでは専門性や資格、制度の問題として扱われることがほとんどでした。しかしながら、プロフェッショナルの本質というのは、そういう表面的な部分ではなく、日々の働き方にあるのです。
 本書では、これまで私が行ってきたビジネスパーソンのインタビューや、企業の事例研究をもとに、プロフェッショナルの働き方の神髄を明らかにしていきます。

※2012年2月に出版された高橋俊介著『プロフェッショナルの働き方』の「はじめに」より著者および出版社の許可を得て転載。無断転載を禁ずる。

高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
高橋俊介

  • 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ワイアット社(現在Towers Watson)に入社、1993年代表取締役社長に就任。その後独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。2000年5月より2010年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員。2011年9月より現職。個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。
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