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安藤 浩之『出世する部長の仕事』の読み方・活かし方

2015年07月14日

安藤 浩之
慶應MCCシニアコンサルタント

理論の研究者、実務家の人たちが今まで大切にしてきたマネジメントの持論というものがあります。たとえば、私の自宅にはモチベーションの向上に関する論文が山ほどあります。山ほどあるのは、モチベーション理論が万能薬になっていないことの裏返しのようにも見えます。
また、実務家の人たちは部下をマネジメントする上で互いの信頼が大切だと言い、そのためには時に酒を飲みながら互いにオープンになることが肝要と言います。しかし、信頼を結ぶことは容易ではないし、酒を飲んでオープンになれば信頼し合えるというのは疑問です。

このように、人々が大切にしてきたマネジメントの理論や持論に疑問と限界を感じ、克服するヒントを明示したいと考えたのが『出世する部長の仕事』を執筆した理由です。

もし、縁あって本書をお手にした際、どのように読み進めていただくことが、皆さんの時間泥棒にならずにすむのか、本書を執筆した背景とともに解説いたします。

時間泥棒1  部長の仕事以外のことを知ろうと思うと時間の無駄になります

このような書き方をするとびっくりするかもしれませんが、これが事実です。本書は「部長の仕事」を論じたものであり、「課長の仕事」は書いていません。一部、部長と課長の仕事の違いを書いているところがあるくらいです。そのため、部下の気持ちに配慮するのではなく目的合理的に推し進めること、部下のモチベーションではなく組織の文化をつくること、管理をするのではなく部を経営することなど、課長のマネジメントでは書かないことが中心です。残念ながら、現在、課長の方がご自分のマネジメントを勉強するためにお読みになると、「時間の無駄だった」ということになってしまいます。

執筆の背景

書店に行けばわかることですが、マネジメントに関する本は多々あるものの、部長のマネジメントに焦点を当てて書かれたものがほとんど見当たりません。これが本書を執筆した理由です。

多くの場合、課長クラスを想定した内容か、あるいはトップマネジメント(社長や役員クラス)を想定した内容になっています。課長のマネジメントを論ずることは比較的容易です。課長は、組織の最小単位の職場をマネジメントコントロールする人であり、範囲が限定的である分、やるべき仕事を明確にできるからです。また、トップマネジメントのマネジメントを論ずることは比較的容易です。トップマネジメントは会社そのものあるいは事業をマネジメントする人であり、範囲は広いものの、やるべき仕事は経営学の中で体系化されているからです。

一方、部長は組織のボトムでもトップでもない分、中途半端な立場になりやすいものです。従来、ミドルマネジメントと言えば課長のことを指しましたが、組織階層が簡素化し、フラットになっている現在、部長がミドルになっています。なおさら、部長の役割を再定義する必要があるのです。

時間泥棒2  ハウツーを知ろうと思うと時間の無駄になります

本書はいわゆるハウツー本ではありません。出版元のすばる舎リンケージさんは本の帯に「会社が求める成果を正しく理解し、最短ルートで役員に抜擢される32のヒント」と入れてくれました。32という数字はなんとも微妙です。また、ヒントという言葉も微妙です。しかし、結構、この微妙な言葉を気に入っています。なぜならば、本書はヒントであって正解を求めるハウツーを書いていないからです。

みなさんはベン・ホロウィッツが書いたHard Things(日経BP社)をもうお読みでしょうか。ベン・ホロウィッツといったら、あのネットスケープを経て、ラウドクラウド、オプスウエアをつくり、ベンチャーキャピタルを創業した人物です。決して順風満帆ではない企業経営の生々しい現実と教訓を書いています。私の本と300円くらいしか違わないので申し訳ないのですが、彼は同書の中で「経営の自己啓発書は、そもそも対処法が存在しない問題に、対処法を教えようとするところに問題がある。非常に複雑で流動的な問題は、決まった対処法はない」と書いています。まさにその通りです。そのため、Hard Thingsの中に書いている、彼の経営ノウハウも「コンプリート!」とは言えません。これが現実なのです。

私が書いた本は、いわゆるハウツー本ではありません。ハウツーを知ろうと思って読むと「時間の無駄だった」ということになってしまいます。ヒントという言葉がぴったりなのです。

執筆の背景

大きな書店に行けばわかることですが、マネジメントに関する書籍は、経営学の書棚に分類される場合と、自己啓発に分類される場合があります。前者は学問であり、後者はハウツーです。

学問としてのマネジメントは自分の知識を豊かにしてくれるものであり、読んでいてとても有意義です。しかし、理論と実践の間には距離があるため、実務家の人たちには敬遠されがちです。
一方、ハウツーとしてのマネジメントはわかりやすく読みやすいのですが、著者の経験則と価値観に引きずられ、自分が直面している問題に当てはめて使うことが難しかったりします。まさにホロウィッツの言うとおりです。そこで、理論とハウツーのどちらか一方に寄るのではなく、両者の間にある谷を埋めるヒントを明示したいと考えたのが本書を執筆した理由です。

時間泥棒3 いきなり読み始めて、一気に読み終えると時間が無駄になります

本書は駅近くや駅ナカの書店で売れているようです。どうやら、出勤時の電車の中や出張時の新幹線の中でお読みになる方が多いようです。活字は大きく、表現は平易、しかも改行がいっぱいなため、車中、移動中に一気に読めてしまいます。しかし、このような読み方をすると時間を無駄にします。ほとんど頭の中には残らないと思います。

みなさんは本を読むとき、頭の中にとどめるためにサマリーを作っているでしょうか。
私は、PCのワープロソフト(WordやPagesなど)を立ち上げて、サマリーを入力しながら本を読むようにしています。1冊の本を読んでA4版の紙1枚にまとまるくらいの情報量にとどめるようにしています。A4版1枚であれば、入力は苦になりません。また、1年に20冊の本を読めば、20ページになります。20ページであれば、年に一度、読み返してみることは容易です(ちなみに、サマリーを作ったら本はだいたい中古として早いうちに売ってしまいます。)。

さて、本論に戻りますが、本書のように移動中に簡単に読めてしまう本は、サマリーを作ろうとしてもA4版の紙半分程度にしかなりません。ナナメ読みしてしまうからです。よって、より多くの学びを得ようと思ったら、読み方のコツが必要になります。ついては、次のような工夫をしてみてください。面倒に思うかもしれませんが、より多くの気づきを得ることができるはずです。サマリーはA4版の紙半分から1枚に増えます。

1.マネジメントの持論を明らかにする

読む前にご自分のマネジメントの持論を明らかにしてください。より具体的には、マネジメントとは一言で言うと何か、その上位にある目的は何か、マネジメントとはより具体的には何をすることなのか、の3点を明らかにすることです。たとえば、「マネジメントとは管理であり、その上位にある目的は業績達成である。より具体的には、部下の育成、部門間調整・・・・」といった感じです。このようにマネジメントの持論を明らかにした上で、本書を読み進め、本書の主張と照らすことで、新たな気づきを得ることができるはずです。

2.部長と課長のマネジメントの違いは何かを明らかにする

1.で明らかにした内容をもとに、課長のマネジメントと何が違うのかを明らかにしてみてください。もし、違いが出ないとしたら、それは何か間違いをしています。部長と課長では、使える経営資源、責任の大きさが異なる以上、マネジメントの違いはかならずあります。それを本書で確認してみてください。

3.サマリーを書く紙を3分割する

サマリーを書く紙を用意したら、紙を3分割します。一番上の欄が初めて知ったことを書く欄です(へー、そうなんだ、はじめて知った)。2番目の欄が自分の考えをより強固にしたことを書く欄です(やっぱり自分の考えは間違いなかった)。そして、3番目の欄が自分の考えが間違っていたことを書く欄です(えっ、違うの? それは気づかなかった)。気づきとは、この3つに分類でき、これらを分けてサマリーを作ることで、本の内容がより記憶にとどまるようになります。

終わりに

本書は、部長の仕事を「事業経営の観点から組織をマネジメントすること」とし、部長のあるべき姿を論じたものです。本書の中で、「マネジメントとは矛盾である」と定義しているくだりがあります。コスト削減と品質強化、業績達成と顧客第一、組織の安定と変革など、とても同時希求できない矛盾に部長は立ち向かわなければなりません。マネジメントは複雑なものであり、唯一の解はないのです。
本書に解を求めるのではなく、ヒントを求めてお読みいただければ幸いです。

安藤浩之(あんどう・ひろゆき)
安藤浩之

  • 慶應MCCシニアコンサルタント
明治大学法学部卒、英国ウェールズ大学大学院卒(M.Sc取得)。HOYA株式会社人事部を経て、1992年に産業能率大学総合研究所に入職。2004年同大学経営情報学部兼任教員、2006年主幹研究員、2008年同大学院総合研究所教授。2009年11月より現職。組織・人材マネジメント、戦略的意思決定論を中心に企業内教育で活躍中。
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