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オリックス 宮内 義彦『私の経営論』

2017年02月14日

私の経営論
著:宮内義彦; 出版社:日経BP社 ; 発行年月:2016年11月; 本体価格:1,944円

2016年3月期決算で7期連続の増益、2期連続で最高益を更新するなど、企業にとって厳しい環境が続く中、成長をし続けるオリックス。皆さまは、どのような印象をお持ちでしょうか。

実は、わたくし藤野にとってオリックスは大学卒業後、営業事務(一般職)として3年半の時間を過ごした古巣であります。転職してから10年ほど経過した今も、オリックスでの経験は私を支える大事な根っこの一つとなっています。

このオリックスという企業の基盤を創り、成長を支え、33年余り経営トップを務めた宮内義彦氏が昨年出版した『私の経営論』。わずか数年でしたが、当時の経験を紐解けることもあるのでは、と手に取りました。

本書では、「ヒト」「モノ」「カネ」、そして「情報」という資源をマネジメントし、企業として価値を生み出し続けるための視点や考え方が綴られてますが、今回はオリックスで働いた経験を活かし、「ヒト」に関しての記述に注目してご紹介したいと思います。

空に浮かぶ雲のような組織

冒頭で皆さまのオリックスへの印象をお伺いしましたが、オリックスはいったい何屋なのでしょうか?私は今も一言では言えませんし、在籍していたときも、オリックスは「空に浮かぶ雲のような組織」でした。同じ形で存在することはなく、常に変化をしながら後戻りせず、進んでいく。私自身、3年半の在籍期間で5つの部署を経験しました。

当時の上司は、若手社員の私にオリックスの魅力をこう表現していました。
「うちの会社の良さは未知数。たとえ今の業務にあまり魅力を感じられなくても、頑張っていれば、いつか自分の好きなことを仕事にできるかもしれない。藤野さんも芝居が好きなら、将来、劇団の運営ができるかもしれないよ。多くの企業では絵空事に感じてしまうことでも、うちでは実現できる可能性十分がある。わくわくするだろう」と。
事実、オリックスグループは2012年より大阪で「オリックス劇場」の運営を始めました。もし私が今もオリックスで働いていたら、出向願いを申請していたことでしょう。

「経営で心掛けてきたのは、常に日々変わり続けること」

本書では、まずこの一文、宮内氏が経営で心掛けてきたことを述べていますが、宮内氏の経営者としての意思決定、行動には常にこのことが土台にあるように思えます。
「新しいことに常にチャレンジするのは、企業の本能だと思います」とも言い切っています。

変わり続けることは“本能”だと堂々と言い切る経営者がどれだけいらっしゃるでしょうか。必要に迫られて、新規事業を生み出さなくてはと気ばかりが焦る状態に陥るケースも少なくないのではないでしょうか。

技術力ではなく、社員力で勝負

新しいことに挑戦するのは本能だと言い切れる経営者の強さ。そして、社員もまた、その本能を認め、変化を楽しめる人であること、これがオリックスの原動力の一つだと感じます。
私がオリックスで働いてよかったと思うことの一つは、一般職・総合職関係なく、経験年数関係なく「オリックスの一員」として扱われた経験です。

一般職だからここまでのレベルでいい、若手だから、異動してきたばかりだからできなくても仕方がない、と見られることは一切ありませんでした。
若手社員一人の力など微々たるものですから、苦労したこと、大変だったことはたくさんありましたが、自身が携わる業務には大小関係なく責任感を持つことと、指示待ち・指導待ちではなく自分から質問・回答を出す力を養うことができ、それは今でも私自身の大事な礎となっています。

職種に関係なく、新入社員から役員まで、社員一人ひとりが前をしっかり見て、精一杯己の力を尽くしている、そのような印象が強い組織であり、おそらく今も、オリックスは、社員力で成長し続けているのだと思います。

知的集約型社会の組織作りを

宮内氏は、組織作りの重要性の一つとして、採用方法について述べていました。
現在の一般的な採用方法は、日本の高度成長、工業化社会の進展にともなって根付いたシステムで、「良質」で「大量」、「低価格」な製品を生み出すために、「同質に優秀な」人材を得るためのものであったこと。環境が大きく変化し、高度なサービスを中心とする知識集約型社会となった今は、必ずしも適したものではないことを本書で指摘しています。

それは採用する企業側だけではなく、学生を教育する側も同様で、工業化社会の発想から抜け出せずに、リクルートスーツから面接の受け答えの内容まで、誰にも同じアドバイスや指導をしていることを危惧しています。

この記述を読んだ際、自分の採用面接を思い出しました。

当時の採用面接は、面接官から「弊社の志望順位を教えて下さい」と尋ねられた場合、たとえ第一希望ではなくても「御社が第一希望です!」と元気に答えるのがお決まりとされていました。
しかし、私はこのやりとりに納得がいきませんでした。当初は「理解できなくても、マナーの一種だと思おう」と自分に言い聞かせて「第一希望です」を連呼していたのですが、回を重ねるごとに疑問は大きくなりました。面接官も、学生が正直に答えてないことくらい分かっているはずなのに、どうしてどの企業も同じことを聞くのか、どうして毎回嘘をつかなくてはいけないのか、という気持ちが強くなり、とうとう、オリックスの面接では、「(第一希望かどうかは)現時点では決めていません。複数の会社の採用試験を受けてますし、その中で私を評価くださる企業で働きたい」と、生意気にも答えてしまったのです。

落ちた、と思いました。
しかし、その日の夜に人事から「ぜひ、入社してほしい」というお電話をいただきました。
大変驚きながらも、繕うことなく面接に臨んだ自分を評価してくださったことが嬉しく、その場で内定をお受けしました。

これはただ、面接で他の人と違ったことを言えばいいとか、目立てばいいといったといったアピールとは違います。
宮内氏も、これからの採用は、優秀かつ仕事熱心であるという基本条件は欠かせないが、その上でさまざまなバックグラウンドを持つ人材を集めることが重要と述べています。背景が違えば、考え方も価値観も違うのは当然です。素直になんの違和感もなく「第一希望です」と答えられるタイプの人間も、私のようなタイプの人間も、どちらも認め、組織に多様性を持たせること。今ではダイバーシティーという単語も一般的になりましたが、オリックスはいち早くその重要性に気づき、取り入れていたように思います。

やるべきことをやる難しさ

オリックスは、私が入社した頃と比べますと、売上高は1.7倍、営業利益は6.5倍、経常利益は12倍にもなりました。それほどの成長を遂げた企業の経営トップを務めた宮内氏の語るマネジメントは「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」、いずれもシンプルで全うな内容ばかりです。

本書を読まれた方の中には、肝心な点は隠しているのではないかと感じられるかもしれませんが、宮内氏は、本書を通して、経営者のやるべきことは、秘策や奇策を生み出すことではなく、やるべきことをしっかりと見出して、それをきちんとやる。実践や行動の重要性を説いているのではないでしょうか。

慶應MCCで開催しているプログラム『経営戦略―危機に立ち向かう経営の条件』では、企業の失敗事例をもとに戦略と組織の原点を探求し、危機突破に必要な経営視点を学んでいます。事例に登場する「失敗してしまった」企業は、状況を理解できなかったわけでも、解決策を見い出せなかったわけでも、判断すべきタイミングが分からなかったわけでもなく、ただ、一歩が踏み出せなかったことが多く見受けられます。やるべきことは分かっていたのに実践できなかったことが命取りとなったケースが多く、頭では分かってはいるものの、実行に移そうとすると上手くいかないのです。

なぜ、明確になっているやるべきことが出来ないのか。
前述の経営戦略プログラムでは、例えば以下のような点が挙げられます。

・サンクコストバイアス、あるいは従来の方法での成功体験により、なんとかなるのではという淡い期待が捨てきれず決断できない

・総論賛成各論反対になりがちな組織を動かすことができない

つまり、経営者が一歩を踏み出す決意をするフェーズと、一歩を踏み出すために組織をどのように動かしていけばいいかのフェーズの大きく二段階に分かれます。

後者の組織としての実行力については、日産の復活劇を支えた、ゴーン氏のリーダーシップによる組織内の危機感共有と団結力醸成が良い例ですが、一朝一夕にはいかず、地道な組織作りの必要があると思います。

オリックスでも、周囲の先輩、上司は極めて優秀な方が多かったことに加えて、部署全体の連帯感が、1人1人の力を2倍3倍にも大きくしていると感じていました。営業職であれば、たとえ自分がヘマをしても後ろに控える営業事務がなんとかしてくれるという信頼感から、躊躇なくさまざまな案件に挑戦していましたし、営業事務は、営業職から寄せられる信頼感に誇りをもって、どんな案件が来ても期日までに上長決裁を得られる内容の書類にまとめ上げていました。

そして、前者、経営者の決断力については、基準を明確にする物差しや客観的に意見してれる他者の存在によって、背中を押してもらえことが大事なのではないでしょうか。
経営者も人間ですから、渦中にいる時、常に平常心で客観的に判断ができるとはかぎりません。

宮内氏は、その物差しとして、「経営学をはじめとする一般理論が役に立つ」という考えから、自分なりの経営論を多くの人へ伝えたいという想いを持っているように感じます。

78歳で オリックスの取締役 兼 代表執行役会長・グループCEOを退任し、シニア・チェアマンという役職に就いた宮内氏。当時、その立場については、「何をする役職なのか、私にもよく分からないんです。だから何をしても良いのかなと思っています」と話されていたのが印象的でした。

オリックスを成長させてきた宮内氏。これからは、シニア・チェアマンという立場を通して、同社のことはもちろんですが、一企業にこだわらず、日本という国を成長させたい。成長できるはずだ。そのサポートをしたい。と考えているのではないでしょうか。

きっと、この著書はその第一歩。

(藤野あゆみ)

私の経営論』(日経BP社)

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