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DVD『紳竜の研究』

2009年05月12日

出演:島田紳助/松本竜介 ; レーベル:(株)よしもとアール・アンド・シー ; 販売元:コロムビアミュージックエンタテインメント ; 発売日:2007年5月 ; JAN:4571106708696 ; 通常価格:5,800円(税込 6,090円)

島田紳助の特別講義

このDVDは、昨年度まで私がラーニングファシリテーターをつとめた『主観を磨く意思決定』で、講師の長瀬勝彦先生が参考文献として強く推薦されたことをきっかけに知りました。
この2枚組DVDには、1枚に紳助竜介の漫才が、そしてもう1枚には島田紳助氏による「特別講義」が収められています。長瀬先生が推薦した、この「特別講義」は、紳助氏が2007年3月にNSC(吉本総合芸能学院)という吉本のお笑い芸人養成学校の学生に行った100分間の講義です。売れる漫才師になるために笑いを「戦略的に」つくりだしていたことを、具体的な方法を含め、惜しみなく話されています。
起業家や経営者の方々にはよく知られているDVDのようですが、その内容は漫才師・芸人に限らず、すべてのビジネスパーソンにとって大変示唆に富むものでした。

戦略のない笑いは売れない

紳助氏は、売れるためには、まず「XとYの分析」が必要だと話します。
Xは「自分に何ができるのか」、つまり「戦力、強み」です。
Yは「世の中の笑いの流れ」、つまり「時代の変化」です。

紳助氏は漫才コンビを組む前に、さまざまな芸人の舞台を観ながら、自分にできること・できないことを見極めることに注力しました。同時に、売れている芸人の舞台をこっそり録音して、時間を含めてすべて書き起こし、それをいくつも並べ、何がおもしろいのかを分析し、「笑いのシステム」なるものを発見しました。極端に言うと、たいしたネタでなくとも、その方法にのっとればお客さんは笑うのです。

XとYの2つがわかって初めて「じゃあ自分はどうすれば売れるだろう?」と考え、「笑いの教科書」という仮説をつくりました。仮説を立てたら、それを実行・検証するために、はじめて必要な相方を探したのです。「仲良し」ではなく、「必要」な相方です。

同世代と組んだり、先輩と組んだりしながら、「オレのめざす漫才についてきてくれる人」を探します。そして、竜介氏に出会います。竜介氏は、落語のような口述で台本を覚えさせられ、ダメ出しの理由も教えてもらえない紳助流の稽古に、辛抱強くくらいつきます。竜介氏は、紳助氏の「この教科書でまずは半年やろう。半年やって、売れへんかったら、それは教科書が間違うてるちゅうことや」という言葉を信じ、とても努力されたそうです。

ライバル分析も忘れません。正統派の漫才ではオール阪神・巨人にかなわない。華のあるスター性は明石家さんまにかなわないと分析します。負ける勝負は絶対にしないと言い切る紳助氏は、自分のキャラクターを「ヒール(悪役)」で行こうと決めました。もともと自分は京都の不良少年やったんやから、自分しか知らない世界がある。その世界を笑いに変えよう、と。

そこで、スーツに七三分けのヘアスタイルが常識の漫才界で、リーゼントにつなぎ、そして一見すると恐そうな不良だけれども実は弱いという、「異端児」として人気を博します。そんな異端児は、当時先輩や劇場の支配人に毎回こっぴどく怒られていましたが、どんなに怒られても決してそのスタイルを変えずにいるうちに、周囲に認めてくれる人が現れてきたそうです。

紳助氏は「戦略のない笑いは売れない」といいます。一発屋はどうして一発屋なのか、その一方で明石家さんま氏のような息の長い芸人はどうしているのか、などにも触れます。笑っている観客の側である私自身は、面白いものはおもしろいのであって、理由を考えたり、ましてや言葉で書き表したり人に説明するなど考えたこともありませんでした。

心で記憶してないものは忘れる

紳助氏は講義がはじまってまもなく、生徒に向かって「メモはとらん方がいい」と言います。所詮、脳で記憶したものは忘れてしまうから。だから「心」で記憶しなければならないと言うのです。

心で記憶するということは、感情を伴って記憶するということです。テストや受験で一生懸命覚えた公式はほとんど覚えてないのに、高校の友達との会話を今でも覚えているのは、心で記憶しているためです。同時に、心で記憶したことは感情を交えて人に話せます。すると、脳で覚えたことを話すよりもずっと説得力があるという指摘もうなずけます。

それでは、心で記憶するためにはどうすればよいのでしょうか?紳助氏は、感受性を豊かにすること、そのためには「遊び」が必要だと話します。もちろんこの遊びとは、単なる楽しいことの遊びではなく、「いろんなことに興味を持ってウロウロすること」です。今すぐに役立つかどうかといった効率を追い求めるのではなく、とにかくいろいろ経験してみること。経験して、心で記憶したことでないと、人の心を動かすしゃべりはできない。紳助氏が、理性による戦略と同時に、心や感情をとても大切にしていることがわかります。

「たまたまちゃうの?」

紳助氏は現在数々の飲食店を立ち上げ、繁盛させていますが、その目的はお金ではないといいます。「自分は才能のある人間やと思っている。それを証明するには、もう一回、無名の新人芸人からスタートしたいけど、それはできない。だからお店を繁盛させることで、自分の能力の高さを自分自身に証明している」のです。

でも、たとえばお好み焼き屋が成功して、ほらみろ、自分は才能があるやろ、と思っても、「(その成功は)たまたまちゃうの?」という、違う自分の声が聞こえてくるそうです。自分の能力を信じながら、同時に疑い続ける紳助氏は、だから同じ店の2号店は作らず、お寿司屋、バーなど、違うお店を作り続けるのだそうです。『主観を磨く意思決定』の授業では、人間が無意識にやってしまう「確証バイアス」という思考のクセを紹介しますが、紳助氏の行動は、その反対の好例として紹介されます。ワンパターンの思考で停止せず、常に疑いながら、新しいアイデアで違う店を作り続ける。お笑いにも、飲食店にも限らず、あらゆるビジネスに共通して言われることだと思います。

以前、プログラムで紹介したことをきっかけにDVDを観た参加者が「「戦略」と、それを支える「パッション」を上手くバランスさせているのが印象的で、一瞬にして彼を見る目が変わりました。」という感想を述べられていました。他にも「自社の研修教材に取り入れました」「部署の社員に見せました」、また芸能マネジメントに携わる方は「自社のタレントにDVDを渡しました」とおっしゃっていました。

君らには10億の価値がある

100分の講義では、ほかにも「才能と努力のかけ算」や「テレビでスペシャリストに“みせる”秘密」、「ものごとを“正しくやる”ということ」など、理性で考えた紳助論を、言葉豊かに、感情たっぷりに語りかけます。漫才選手権として定番となった「M-1グランプリの“攻略法”」は、効果的なプレゼンテーション法に通じます。「しゃべりの天才」ですので、あっという間の100分間です。

最後に、紳助氏は「今のオレが、君たちに絶対かなわないこと」を生徒たちに打ち明けます。
「いま、君らと夢を語り合ったら、君らの勝ちや。」「夢の数と若さ。いま神様が、これを10億で売ってくれるんやったら、一文無しになっても10億払うわ。ということは、君らは今、10億円分持ってるっちゅうことや」と、涙ぐみながら彼らを素直にうらやみます。
「でも、このまま50歳になったらなんも無しや。だからまずは漫才。漫才は1回目。それがあかんからといってすべてが終わるわけと違う。でも1回がんばってみよう。」
紳助氏の言葉は、社会人だけでなく、たとえば就職活動にがんばっている学生にも観てもらえたらいいなと思える内容でした。
(今井朋子)

『紳竜の研究』(コロムビアミュージックエンタテインメント)

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